私の願い

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私の願い

「それにしてもお前はどうして主様にそのように肩入れをする? お世辞にも主様は人に好かれる姿ではないと思うが」  今日は山中にある山菜を取りに来ていた。烏が天ぷらの作り方を教えてくれるらしい。主様も気に入ってくれればいいなと思いながら摘んでいると、烏が長年の疑問をぶつけるように口にした。 「私がこの年まで生きてこられたのは、主様のおかげなのです。双子の私は忌み子だからったから」  双子は忌み子。奇妙なものは嫌われ、疎まれる。過去に双子が生まれた時はどちらか、多くは下の子がその場で殺されていた。私の場合は男女の双子だったから、殺されていたのは跡取りになれない私だ。  それがこの年まで、無事生き永らえたのは主様との約束があったからだ。主様に差し出す贄としてだけ、生きることを許された。それでも外に出ることは禁じられたので蔵の中でひっそりと過ごしていた。 「それにお会いした主様はずっとお優しい方でした」  食べられたら終わりだと思っていた。それが私の食事を食べ、傷を作るなと言ってくれる。家族は私が怪我をしようが、病にかかろうが生きてさえいれば良かったので本当に最低限の接触だけで捨て置かれた。だから自分の食料の管理とはいえ気にかけてもらえると、いつも胸のあたりがくすぐったかった。  私が思わず微笑むと烏がぽつりとこぼした。 「お前なら、もしかしたら主様を救えるかもしれん」 「やはり、主様はどこか体が悪いのですか?」  小さくなったように見えた体を思い出し青ざめる。 「悪いと言えば、もうずっと悪い。 ……あの方は、本来は化け物ではなく心優しき守り神であった」 「かみさま」  化け物ではなく神様。  それは私の中にすとんと納まった。   「それが人の醜き願いと、信心が離れたことで力を失っておられる。それでも無辜(むこ)の民が傷つくのが耐えられず、その身を穢しますます闇を取り込んでしまわれた。あのような姿に変わられたが、本来はとてもお美しい方なのだ」  美しい姿を想像しようと思ったが、私の少ない知識では上手く出来なかった。 「どうすれば、元のお姿に戻られるのですか」 「それは――」  烏が答えようとした時だった。 「なぜ、お前が生きている!!」
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