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叫び声に思わず肩が震える。声の方を振り返ると険しい顔をした父が立っていた。籠を背負っているから、私と同じように山菜を取りに来たのかもしれない。
「あれだけ言い聞かせたのに逃げおったのか! お前の勝手で我ら家族を不幸に叩き落すつもりか!」
顔を真っ赤にした父が近づいてくる。
「今度は逃げ出せぬよう、足の骨を叩き折ってくれるわ」
「逃げるのだ!」
「うわ、よせ!」
烏が父めがけて飛んできて、足止めをしてくれた。
その隙に逃げようとして、足がもつれ倒れ込む。とっさに付いた手のひらの皮がめくれ血が垂れる。この体を傷つけるなと言われていたのに。不甲斐ない自分に涙がにじむ。
「なんなのだ、あの烏は!」
烏を追い払った父が私の腕を掴もうとした時、一陣の突風が吹いた。背中を強く引っ張られたかと思うと体が宙に浮く。
「何をしている」
気づけば私は主様の後ろに庇われていた。主様を見ると父は先程までの勢いもなくなり、真っ青な顔で立ち尽くす。
「それが、逃げ出したのだと思い、送り返そうとしただけで」
「これをどうするかは俺の勝手だ。余計な手出しは不要。次に手を出そうとしたらお前の方を食うてやる!」
しどろもどろに言い訳を始めた父の言葉を遮り、主様が大きな口を開けて威圧すると、父は情けない声を上げ何度も転げながら逃げて行った。
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