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鈴木は少し頬を膨らませてから、すぐにぷっと吹き出した。本人が言うようにその顔に覚えはなかったが、はじけた笑顔には好感が持てた。俺は頬に差した赤みを隠すように俯く。それを謝罪とでも受け取ったのか、鈴木はおかしそうに笑いを含んだ声をだす。
「あ~、いい。いい。気にしないで。十年も経てば女の子は変わるものよ。でもそっか。私のこと覚えてないとなると、あの日の約束も覚えてないかな? 私、結構今日楽しみにして来たんだけど」
意味ありげに俺の瞳を覗き込んできた鈴木の言葉に、俺は思わず顔を上げた。
「あ、あの日の約束?」
戸惑った俺の声を聞いて、鈴木は少しだけがっかりしたような顔をした。しかし、すぐに笑みを見せる。
「やっぱり、それも忘れてるのか。もう、帰りまでには思い出してよ」
「え? あ、あの……」
鈴木の言葉の意味を確かめようとする俺の声を遮って、店内の奧から数人の女子が騒ぎながら出てきた。その中の誰かが鈴木を呼ぶ。鈴木はそれに答えるように手を挙げると、もう一度俺に向き直りニカリと笑う。
「頑張って思い出してね。佐藤くん」
一人取り残された俺は、呆然と鈴木の背中を見送った。
鈴木綾音。爽やかな笑顔が印象的だったが、やはり俺の記憶の中にはいない。そんな奴と俺は一体どんな約束をしたというのだ。
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