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店の奥へと消えてしまった鈴木の残像をぼんやりと追っていると、背中をバシリと叩かれ我に返った。
「伸吾。何ぼんやりしてるんだ?」
開始時刻ギリギリに店に到着した友人と連れだって、俺は会場となっている座敷へと足を踏み入れた。室内はざわざわと騒がしく、其処彼処で小さな固まりが出来ていた。大体は、高校時代に仲の良かった者たちが集まっているのだろう。そんな中に、極稀に名刺交換をしている者たちの姿が混ざる。そんな姿を目にして、十年を経て俺たちはそれなりに大人になっていたのだなと、他人事のように感じたりもした。
一緒に室内へと入室した友人は、誰々は相変わらずお高くとまっていそうだとか、誰々はあんなに巨乳だったかとか、誰々は今なら落とせるかも知れないなんて下卑た品評会を一人で始めていた。そんな言葉をなんとなく聞き流していたら、友人の口から流れるように出ていた言葉が止まった。不思議に思い視線をたどってみれば、その視線はあの鈴木綾音に注がれていた。
「な、なあ。あんな奴、うちのクラスにいたか?」
鈴木は相変わらずはじけるような笑顔を周りに振りまいている。やはり、男ならばあの笑顔に多少は惹かれてしまうものなのだろう。
「ああ。鈴木綾音だろ?」
「鈴木?」
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