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俺の言葉に友人は眉をひそめ首を傾げた。どうやら昔の記憶をたどっているらしく、口の中で「鈴木、鈴木」とぶつぶつと呟いている。それからしばらくして彼の呟く口調が変わった。何かを思い出したのだろうか。
「あれ、本当に鈴木か?」
「ああ。さっき本人がそう言ってたぞ」
「まじか。だとしたら、変わりすぎだろ、あれ」
友人の驚愕ぶりに今度は俺が問う。
「そんなに昔と違うか?」
「ああ。違うなんてもんじゃないだろ。あれは。別人だって絶対。もしかしておまえ、鈴木綾音のこと覚えてないのか?」
友人の言葉に頭を掻く。
「実は全く覚えてないんだわ」
「うわ、薄情な奴だなおまえ。とはいえ、まぁ、鈴木に関しては仕方がないかもな」
俺のことを揶揄いながらも、友人は意味深な言葉を向ける。その言葉の意味を知りたくて、目だけで続きを促せば、その意図が伝わったのか、友人は声を顰めて言った。
「だって、俺の知っている鈴木絢音って、縄みたいな三つ編みおさげに大きな黒縁眼鏡の冴えない奴だったぜ。絶対あんな感じじゃなかった」
そう言って確認するようにやった視線の先には、鈴木絢音だと言う女が、周囲と楽しそうに話をしていた。
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