輪廻転生・倦怠期

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海岸にたたずむ一人の少女。 あの後ろ姿。間違いない、彼女だ。 かつての記憶が蘇る。 「もし生まれ変わったら、また一緒になろう!」 「うん。ぜったい、約束だよ!」 そう固く誓ったあの日。 それからの時を共に過ごし、年を重ね、共に命が尽きた。 そして・・僕は前世の記憶を継いだまま、生まれ変わった。 砂の上を走り、彼女に近づく。 はやる気持ちをおさえて、息を整える。 足音に気づいた彼女が振り向いた。 彼女の目線と、僕の目線が結びつく。 僕はひとつ息をつき、声をかけた。 「ども」 「おつかれ」 彼女はおもむろに腕時計をみて時間を確認した。 「今回はちょっと時間かかったね。私の勝ち」 「あーくそ。急いだんだけどなぁ。」 残念ながら今回は負けのようだ。 最後走ったからといって追いつくものでもないか。 そう。これは転生トトカルチョ。 あの日の約束は守られた。守って守って、守られまくった。 何回生まれ変わっても一緒になる人生だった。 出会う時期が微妙に違うことに着目して、 「生まれ変わり後、何日目に出会えるか?」を賭けるようになった。 転生ならではのお遊びだ。 「も」 「う」 いつもの恒例儀式。 最初の何回かは、出会えるたびに当初の言葉通りに約束した。 しかし「あれ?やりすぎじゃない?」となってからは、 どうして何度も生まれ変わるのだろう、と考えるようになった。 「例の約束の言葉が引き金になってるのではないか?」という仮説に至り、少しずつ言葉を変えてみたらどうか、という実験をするようになった。 「もし生まれ変わったら、また一緒になろ」 「うん。ぜったい、約束だ」 一文字削ってみたが、やはり生まれ変わった。 「もし生まれ変わったら、また一緒にな」 「うん。ぜったい、約束」 もう一文字削っても生まれ変わった。 「もし生まれ変わったら、また一緒に」 「うん。ぜったい、やくそ」 と、生まれ変わるたびに一文字ずつ削っていっったが・・ 「も」と「う」だけになっても続いたので 実のところ言葉は関係ないのだろう、と結論づけた。 それでもそのあと何回かは「も」と「う」の言い方を変える遊びもやった。 小声で言ってみたり、低い声で言ってみたり、裏声で言ってみたり。 何の影響もなかった。 とはいえ止めるタイミングも見失った。 ひとまず出会ったら言う、みたいな儀式になっている。 惰性だ。 二人して海岸をブラブラ歩いた。 転生トトカルチョと儀式が済んだら、あとは特にやることはない。 残りの人生を粛々と生きて、また生まれ変わるだけだ。 あと何回繰り返すのか。生まれ変わるたびに少しは考える。 100回を超えたあたりから回数自体を数えていない。 回数ではない。どうなったらこの転生は終わるのか。 その答えは・・ 「次の賭け、決めておく?」 彼女が口を開いた。 「次、ねぇ」 僕はぼんやりと答えた。 海を見ながら言葉を続ける。 「そっちの残りはどう?」 彼女は首を横に振った。 「なるほどねぇ。こっちも僕が最後の一人なんだよな」 「ま。そう言い始めてからも何回が続いてるしね。まだどっかにコロニーあるんじゃない?」 僕たちは足を止めて、赤い海を眺めた。 地球には命の息吹は感じられない。 汚染されてない限られた土地に、わずかな人類が残ってるだけだ。 それもやがて無くなっていくだろう。 「きっと最後は、生まれ変わる先が無いってことで終わるんだろうな」 二人の約束が、まさか人類破滅の見届け人になるとは思わなかった。 ここ何回かは確かに生まれ変わったけど、今回こそは最後のようにも思えた。 あまりに長すぎる旅だったな。 彼女もしばらく黙っていた。同じように考えてるだろう。 ふと、小さなつぶやきが聞こえた。 「一緒にいれてよかった」 その声は波の音とともに消えていった。 約束したあの日の気持ちが、少しばかり蘇った。
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