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みくは、航と悠太郎、アルチーナが朝ごはんを食べる様子をぼんやり眺めながら考えた。私の願い事って、きっとあれだよね……。あくびをしている航をちらっと見る。
「何?」
「いや、別に」
「そうだ、みくの願い事って何なの」
「えっ」
「いろいろ考えてみたけど、みくが元の姿に戻る方法はもう願い事を叶えるほかないと思うんだ」
「どうしてくれんのよ」みくは、納豆ご飯をむさぼるように食べているアルチーナをにらんだが、アルチーナはけろっとして言った。
「おまえは、無敵のミラクル戦士なのだろう。自分の願い事を叶えるくらい簡単じゃないか。大金持ちになりたければ銀行を襲えばいいし、世界征服したいなら大国から核ミサイルを奪えばいい。そんなことより、この腐った豆、うまいぞ。おかわりをくれ」
「そんな恐ろしい願い事なんかないわよ、私には! だいたい、あなた、いつまでここにいる気なの? そもそも、あなたは誰? おうちはどこ?」
「質問の多いやつだな。いつまでいるかって? それは、私と契約を交わした乗り物が私を見つけてくれるまでだ。あれがないと私は帰れない。次は、私が何者か、だな。聞いて驚くなよ。私は、魔界史上初めて飛び級で……」
アルチーナが意気揚々と始めた自己紹介を航が遮る。
「みく、これ悠太郎の幼稚園のバスじゃないか? 見覚えがあるだろ、この場所」
航が突きだしたスマホにはSNSの動画が映っていた。バスが橋の欄干を突き破り、いまにも転落しそうだ。園児が窓から顔を出して泣き叫んでいた。
「大利根橋だよ、これ! 助けなきゃ!」。そう叫ぶと、みくはもうリビングのガラス戸を開けて飛び立っていた。現場まではひとっ飛びだ。みくは、今まさに橋から利根川に落下しようとしているバスを下から支え上げ、「こばと幼稚園」のグラウンドへと運んだ。みくがバスの中に入ると、園児たちから大歓声が上がる。幸いけがをした園児はいないようだ。運転手は、ハンドルにもたれてぐったりとしていた。
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