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救急車、救急車。みくはバスを降りようとしたが、「ルミウスだ!」「ルミウス!」とはしゃぐ園児にまとわりつかれて一歩も動けない。
「みんな、ちょっと待って! 運転手のおじさんをお医者さんに診てもらわないといけないの。あとでいっしょに遊ぶから、ね、離して、お願い!」みくが懇願しても園児たちの興奮は収まらない。バスの中はカオス状態だった。
そこに救世主が現れる。「はい、はい、はい。そこまで、そこまで。授業が始まりますよ。バスを降りて教室に行きましょうね。ルミウスはお仕事があるの。邪魔をしてはだめですよ」。優しそうな顔をした初老の婦人。デニムにTシャツ、ワンピースエプロンの軽装だが、ロマンスグレーの長い髪を頭上で束ねて上品に薄化粧しており、威厳に満ちたオーラをまとっている。婦人は手を叩きながら、巧みに園児たちを出口へと誘導した。外で待機していた保育士たちがすかさず園児たちを整列させ、カルガモの親子のように校舎へと行進していく。それを見届けると、婦人はスマホを取り出した。
「こばと幼稚園園長の白川と申します。送迎バスは無事、園に戻りましたが、運転手が体調を崩しまして……。はい。ええ、脈はありますが、呼吸はすこし浅いですね。そうですね、救急車をお願いします」
園長先生だったのか……。みくは無駄のない園長の動きに見とれた。
電話を切り、園長がみくに向き直った。「ルミウスさん、お待たせしました。園長の白川園子です。まずは、お礼を言わなくてはなりませんね。園児と運転手を助けていただき、心から感謝します。まもなく救急車とパトカーが来て、保護者の方も大勢みえて騒ぎになりますけど、どこかにお隠れになる?」
「はっ、そうだ、悠太郎を送り届けるのを忘れていました!」
「あら、悠太郎くんのお知り合いなの?」
「はっ、いえ、あの、その……」みくが口ごもっていると、バスの外から航と悠太郎の声がした。
「おーい、みく。悠太郎を連れてきたぞ。よかったな、間に合って」
「お姉ちゃん、アルチーナちゃんもいっしょだよ。鬼ごっこしようよ。かえでちゃんとまさくんもね、ルミウスが大好きなんだ」
白川がくすくすと笑った。「何か事情がありそうね。警察は福園長に任せて、話をしましょうか。お役に立てるかもしれないわ」
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