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みくの心の声が聞こえたのか、オウムが小さな首をくるりと動かしてみくを見据えた。
「ギョエー、ソコノオマエ、ワタシトトモダチニナレ! ワタシヲ、カワイガレ、イイコイイコシロ! ギョエー!」
―――なんか、怖いな。友達の定義も間違っているし……。
オウムの迫力に押されてみくが後ずさると、オウムが畳みかける。
「ソコノオマエダヨ、ポロシャツトデニムノジミナオンナ! ハヤク、ワタシヲスキニナレ! ニンゲンは、ショウドウブツガ、スキナハズダロ!」
―――かわいくない。
地味な女呼ばわりされてかちんときた。みくは踵を返したが、聴衆が面白がってみくの行く手を阻む。
「かわいがってやりなよ」「そうだよ、頭をなでなでしてあげなって」
みくは、無視して改札に急ごうとしたが、学生風の男たちに通せんぼされて前に進めない。背後ではオウムの羽音と声が一段と高くなる。
「オイ、ジミオンナ! ニゲルノカ! ハヤクシロ! ワタシハ、イソイデイルノダ! ギョエー!」
「なんですって!」。オウムの失礼千万な発言に、みくは完全に頭に来た。頭に血が上っていたせいだろう。オウムがとてつもなく流ちょうにしゃべっていることや、飼い主らしき人物が周囲に見当たらないことに違和感を覚える冷静さを失っていた。みくはオウムにつかつかと近寄り、中指で小さな頭をぴしりとはじいた。
「ギョエー! イタイジャナイカ、バカオンナ! ダレガ、ユビパッチンシロッテイッタ! ナデナデダヨ、バカ!」
羽を激しくばたつかせて抗議するオウムに、みくは毅然と説教する。「あのね、かわいがってほしかったら、そういう態度を取りなさいよ! そんな生意気じゃ、誰もなでなでしてくれないし、友達なんかできないわよ!」
「ギョエー! ナンダト、ジミオンナ! ニンゲンノブンザイデ、ワタシニセッキョウカ! ギョエー!」
オウムの頭を再びみくの中指がびしりとはじく。「どっちがバカよ。この世界では人間が偉いの。お願いしますって言いなさいよ!」
「フザケルナ! ワタシガ、オマエゴトキニアタマヲサゲルワケ、ナイダロ! タンイガカカッテイルノダ、ハヤクシロ!」
意味不明だ。タンイって何よ……。みくはだんだんばかばかしくなってきた。「あっ、そう。じゃあ、そこで一日中、叫んでいなさい。さようなら」。みくが立ち去ろうとするのを見て、オウムの声がにわかに焦りを帯びる。
「マテ! ドコニイク!」
「急いでいるの。生意気なオウムに関わっている暇はないの」
「マッテヨ、ジカンガナイノ。ラクダイシチャウヨ、ギョエー!」
ラクダイ? 単位の次は落第って、オウムのくせに大学生だとでもいうのか。訳が分からない。オウムがあまりにしつこくせがむので、みくは仕方なく「『お願いします』って言いいなさい。それが条件よ」と最後通告した。オウムは抵抗したが、みくに圧倒的有利な状況だ。腕組みして睨み続けるみくの気迫にオウムがとうとう折れた。
「オ、オネガイシマス……」
―――勝った。
みくはにやりと笑い、「よし、よし。やればできるじゃない」とオウムの頭を両手でなでて改札に走った。
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