ミラクル戦士じゃないとだめですか?〜魔王の課外授業①〜

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 とんだ道草を食ってしまった。上野駅で常磐線に乗り換えて約四十分。駅から歩いて十分だから……ぎりぎりパーティーに間に合いそうだ。日曜日の下り電車はわりとすいている。汗を拭いながら座席に腰かけて一息つくと、みくは、ひどく疲れていることに気づいた。早起きして炎天下で三時間以上、並んだのだ。疲れるよね、そりゃ。電車の振動が子守歌のように心地よい。みくは、あっという間に眠りに落ちた。  不思議な夢だった。みくは、秋葉原の駅前にいた。夢だと思ったのは、さっき言い争ったオウムが悠太郎くらいの大きさになり、腕組みするように羽を体の前で交差させて、みくを睨んでいるからだ。あれほどたくさんいた見物客の姿はどこにも見当たらない。  オウムはあさっての方角を見ながら、ふてくされたようにつぶやいた。「トモダチニナッテクレタオレイ、シテヤルヨ」  友達になった覚えはない。頭を撫でただけだ。みくは面倒なことになりそうなので、あえて反論はしなかった。「へえ、殊勝なことを言うね。どんなお礼をしてくれるわけ」。 「オマエノネガイゴト、ヒトツカナエル」 「願い事? 本当に? ええっと、私の願い事はね……」 「オマエノササヤカナネガイナド、ワタシノジュモンガ、センコクショウチダ。ワガマホウハ、マカイサイキョウダカラナ。グッドラック!」  オウムは不敵な笑みを浮かべて、みくの目の前からスーッと姿を消した。霧のように蒸発してしまった。みくがしばし呆然としていると、遠くから車掌のアナウンスが聞こえた。「次は取手、取手」。秋葉原の駅前で、取手駅到着のアナウンス。これはやはり夢なのだと、みくはあらためて思う。あっ、そうだ、誕生日パーティー。みくは、はっとして目を開けた。電車がのホームに滑り込み、まさに停車しようとしていた。危うく寝過ごすところだった。危ない、危ない。  自動ドアがプシュッという空気音とともに開く。みくは、プレゼントが手元にあることを確認して車両を飛び出し、老若男女に交じって改札に向かった。どういうわけか、すれ違う人たちが無遠慮にみくを見て笑う。「感じ悪いな……」。小さな子供には指までさされた。子供の隣にいる母親らしき女性が小声で「やめなさい」と注意する声も聞こえた。改札の駅員もまじまじとみくを見つめている。「顔によだれでもついているのだろうか……」。みくは(にわか)に不安になり、改札近くの女子トイレに駆け込んだ。  鏡の前で化粧直ししている婦人がちらりとみくを見て「ひっ」と奇妙な声を漏らした。いよいよ事態は深刻だ。自分の顔にはいったい何が付いているのだろうか。よだれよりも汚いものが体内から飛び出しているのかもしれないと思うと、心臓がきゅっと縮み上がった。みくは、婦人に会釈をして隣の鏡の前に立った。
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