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「いったい何をしているの。料理が冷めちゃうじゃないの」
「みく、何だ、ルミウスの格好して。あっ、サプライズか。それで悠太郎が大喜びしているのか。やるじゃないか」
「いや、そういうわけじゃ……」
「とにかく早くあがりなさい。パパも悠太郎も話はあとでね。みんなで乾杯しましょう」
誕生日会がつつがなく進行したのは乾杯からわずか十五分だった。母親の眉間に次第にしわが寄り、みくに苦情を言い始める。
「どうしたの、さっきから。ちっとも料理に手を付けないじゃない。唐揚げ、好物でしょ?」
「食べたいのは山々なんだけどさ、食べられないのよ。衣装のせいで」
父親が笑った。「悠太郎はもう十分楽しんだと思うぞ。そろそろ脱いで、料理を食べたらどうだい」
「そうじゃないの、脱げないのよ。着た覚えもないの、こんな衣装。だれかのいたずらだと思う。電車で居眠りしている間に無理やり着せられたんだよ、きっと。見てよ、どこにもチャックがないの。ねえ、どうしよう」
「何をばかな……」。両親は顔を見合わせて笑ったが、娘が本当に混乱しているのだと分かり、表情を曇らせた。母親が「まさかね」と言いながらみくの全身をくまなく調べて青ざめる。
「ちょっと、待っててね」。母親が台所からハサミや肉切り包丁を持ってきた。「やだ、何を……」。みくが抗議する間もなく、母親がみくの背中に包丁を走らせた。
「ぎゃあ!」。みくと母親が叫んだのはほぼ同時だった。「痛いじゃない! ……って痛くないや」「やだあ、もう、刃こぼれしちゃったじゃないの!」
「どきなさい、俺がやる!」。今度は父親が、趣味のDIYで使うドリルを持ち出してきた。鉄板に穴をあける強力なタイプだ。
「やめてよ! これってDVじゃないの!」
「体に穴をあけられたくなかったら、おとなしくしていなさい!」
ドリルよりも血走った父親の目が怖い。みくは、背中にドリルの先端が押しつけられる感触に身震いした。
「いくぞ!」
「やだあ!」
ギュイーン、ギュイーンインインイン、ガッ!
「ああ! ドリルが壊れた!」
大人三人のどたばたを眺めていた悠太郎がつぶやく。「あのね、ルミウスはすごいの。ミサイルもはじき返すんだよ」
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