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「どうした」航が電話に出た。奇跡だ。みくの中に溜まっていた感情がどっと溢れた。悲しみと怒りがないまぜになって口から飛び出した。
「どうして返信してくれないのよ。電話にもずっと出ないし!」怒りが先行した。
「……ご、ごめん、料金未納で止められていた」航がおどおどして謝罪した。
「私、もうだめだ。どうしよう」次に悲しみが押し寄せた。何をどうしゃべったか分からない。この異常な事態をうまく伝えられた自信もない。航は、黙ってみくの話を聞き、そして言った。
「神社まで出てこられないか? 試したいことがあるんだ。夜中だから人目につかないと思う。どう?」
「行く!」
みくは玄関を飛び出し、高校の近くにある神社に走った。学問の神様を祀っている神社だ。受験の直前に航を無理やり引っ張って行っていっしょに合格祈願したっけな……。航は余裕だったけど、私は合格ラインぎりぎりでひどく不安で、航にぐちを聞いてもらったっけ……。みくはそんなことを思い出しながら、歩いてたっぷり十五分かかる距離を一分で走り抜けた。ミラクル戦士はすごく足が速い。
真っ暗な境内でぽつんと航を待つ時間がとてつもなく長く感じた。虫の音に交じって、境内のじゃりを踏む音が聞こえる。
「みく?」
「航!」
みくは航に駆け寄り、抱きついて泣いた。
「みく、落ち着いて。誰か来たらやっかいだ」
「そ、そうだよね、ごめん……」
航がみくの両肩に手を置き、ささやく。
「いまから秋葉原に行こう。オウムを探すんだ」
「オウムを探してどうするの」
「分からない。でも、オウムはみくを元の姿に戻せる方法を知っている気がするんだ。いまはそれしか思いつかない」
「もう電車ないよ」
「ルミウスは飛べる。ルミウスウイングだ。急ごう。夜が明けたら動きにくくなる。明日から幼稚園に悠太郎を送っていくんだろ?」
「うん。航、あのさ……」
「何?」
「信じてくれてありがとう」
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