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空が落ちた夜
この海沿いの町でオーロラが見えたことはなかった。
当たり前の話だろう。だってここは日本なのだから。歴史上の記録では、日本でオーロラが見えた記録はいくつかあるが、北の空が赤くなったとか、そんなはっきりしない記述だけだった。
私たちが夜空に見たオーロラはそんなものではなくて、空全体を覆う緑のカーテン、極北の写真でだけ見たことのある、天から降り注ぐ無数の矢のようなオーロラだった。
オーロラという現象は地磁気の影響で見られるもので、帯電した高エネルギーの宇宙線は磁力線に沿って回転し、地磁気の極に至ってやっと地表へと落ちてくる。だから、地磁気が地平線に沿って走る日本のような低緯度地帯で見られることは普通ない。オーロラが見えたということは、この地域に一時的に地磁気の極が現れていたことを意味するのかもしれない。私はそんな風に彼から聞いた。
とにかく、それが見えるはずのない日本の片田舎の町で、緑のオーロラが見える現象は三晩も続いたのだった。人間の知覚で感じられるそれは、オーロラが見えたというだけのことに留まる。電子機器はそれだけでは済まなくて、この前後の何週間か、この町は電波障害に悩まされていた。だけど、もっと深刻な影響を受けた存在があったのだ。
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