空が落ちた夜

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 今私の前に置かれたケージの中で、それは弱々しく羽根をばたつかせている。越冬のために南に飛び立とうとしていた渡り鳥だ。海に近い高台を走る道路沿いで、渡り鳥が二十羽ほど落ちているのをドライバーが発見して、市に連絡したのだ。ほとんどは死んでいるか、弱り切っていて、一羽しか助からなかった。 「この現象、あのオーロラと関係あるんでしょうか?」  誰にともなく私は尋ねる。 「んー、分かんない。樋口さんぐらいしか分かんないんじゃないの」  次長はそんな風に答えた。そんなことはないでしょう……と言いかけて、私はやめる。  私はこの町の市役所に勤めている、しがない公務員だ。女だてらにそれなりの大学に行ったけど特にやりたいこともなく、地元に帰って堅実な就職をして、今はもう三十二になるが、職場での扱いは雑用係のようなものだった。  今のこの仕事も、雑用というか、業務の区分では括り難い仕事の一環だ。近隣の鳥類保護センターの職員に連絡して、保護を待っている。近隣と言っても三十キロは離れていて、現地への到着までは時間が掛かったので、生き残りの渡り鳥を一時的に市の方で保護したという経緯だった。  そして、私は今、その職員の到着を待っている。樋口さんというのは、その人の名前だった。
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