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私の車で数十分ほど運転し、私と樋口さんはその場にたどり着いた。海を見下ろす高台にあって、道路沿いの砂地の上に細い草が根を貼っているような場所で、海風の影響か、辺りに映える松の木はまばらで、丈が低く、また海とは反対方向に捻じ曲がっている。
「羽根が残ってますね」
そんな風に言って、樋口さんはしゃがむと、地面に残った痕跡を確かめている。
「死骸はないかもしれません」
私は彼に声をかける。彼は写真を撮ったり、羽根を拾い上げてはジッパーバッグに収めたりしている。もし死骸があったら、私の車で運ぶことになったんだろうかと、少し私は考えてしまう。
「すみません、ここまで御足労いただいたのに」
「いえ、ありがとうございます。僕の我が儘というか、知的好奇心のようなものですから」
知的好奇心、そう彼は表現した。鳥たちの死を悼んでいるのではなかったのか、少し私は訝しく思う。樋口さんはそれを察したようで、少し照れたような顔で続けるのだった。
「この仕事の業のようなものです。鳥たちが生きていることを喜び、なるべくであれば生かしたいと思う。だけど、死んでしまったら、それを恐れ悲しむよりは何があったのか知りたいと思う。そういうもんです、鳥類学者というものは」
「分かります」
私に分かっているのかどうか、本当は疑わしい。だが、樋口さんの言葉の誠実さ、裏のなさには、それを信じられるだけの何かが存在していたように私は思う。それから、私は疑問を口にする。
「オーロラのせいなんでしょうか? 地磁気が乱れたので、渡り鳥が方向を見失ったとか」
「そうですね。断定的なことは言えないのですが。可能性はあります」
それから、専門ではないのですが、と前置きをして、樋口さんは私に、地磁気の極の話をしてくれた。
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