空が落ちた夜

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「生き物は、天変地異を予期すると言いますね。今回もそれなんでしょうか?」  私はそんな風に聞いてみる。 「うーん…………」  その質問には、樋口さんも答えかねているようだった。  私の心に浮かんでいたものは、何だったんだろうか。後から思い返してみても、正体が掴めない。 「思うんです。人間は知恵を手に入れてしまったので、動物には危機感として明確に分かるそれが、理解できなくなってしまったのではないかって。何か大事なことを見落としているんじゃないかって」 「……どうでしょうかね。僕には分かりません」  樋口さんは、分からない、と答える。分かっていることが多い人であれば、分からないことは分からないと言えるのだ。分かることが少ない、分からないことが分からない人間ほど、分からないことを誤魔化して、分かっている振りをする。私もその口だ。 「でも、鳥に感じられる地磁気というのは、もっと違っていて、明確な感覚ではないでしょうか。例えば視覚とか、聴覚のような。人間だって、味覚は他の動物よりずっと発達していると言いますし。……まあ、鳥になったことはないので、それがどんな感じなのかは、正確には分かりませんけど」  そう言って彼は笑う。 「人間に知覚できない第六感が動物に備わっていると信じる人は多いし、僕だって否定はできません。だけど、動物とはいとも簡単に死ぬものでもあります。全部結果なんです、彼らにとっては。生きるか死ぬかの究極の選択に常に接していて、常に回答を迫られている。そんな世界を彼らは生きている。だから、僕は動物が好きなんでしょうね」  私は、自分の頭に思い浮かんだ疑問を、口には出さなかった。人間はどうなんだろうと。生きるか死ぬかの究極の選択を迫られて、正しい答えが出せるのかどうか。その選択を迫られた瞬間を、人間は理解できるのかどうか。
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