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結局、オーロラは何かの前触れだったのか、そうではないのか?
私にはそれは分からない。だって、あの大地震と、それに続く大津波が起きたのは、それから数ヶ月経ってからのことだった。それに、その時にはもっと明確な兆しがあって、それでも私たちは反応できなかった。
唯一、気がついたのは妹だけだ。あの日、私と一緒に家を出ようとした妹は、鍵を掛けてからもう一度、家の全部のガス栓を確認するために戻ったのだ。その理由を妹はその時は言わなかった、だけど、数日前から低い音の海鳴りが続いていて、嫌な感じがずっとしていたことを後で彼女は私に語った。
それでも私には分からない。実際に海鳴りがあったのか、妹の気のせいではなかったのか。あるいは、沖合を通る船舶の霧笛がそう聞こえたのか。あるいは、妹が抱いた嫌な感じは、虫の知らせのようなものだったのか。あるいは、実際に海鳴りがあったとして、それと地震に関係があるのか、それとも関係なんてないのか。私たちはまだ、あの時の物事を主観でしか捉えられないのだ。
今の私に言えることがあるとすれば、天変地異の前触れがあったとしても、その時には恐ろしいことが起きるとは分からないし、それが起きた後でも、それが本当に天変地異の前触れだったのかどうかは分からないということだけだ。
それから、あの大津波自体についての話になる。私の住むこの町、それから市役所も、筆舌に尽くしがたい大混乱に叩き込まれた。それについては、私が語るよりは、皆さんがそれぞれ思い返してもらう方が早いし、正確だろう。
だから、その後の樋口さんと、鳥類保護センターのことも忘れていた。彼とセンターがあの震災で無事だったのかも、私はずっと知らないままだった。それでも何年か経って、樋口さんに私は会うことができたのだ。
あの保護した一羽の渡り鳥が、また飛べるようになって、遅い渡りの集団に加わることができたと、樋口さんは私に語ってくれたのだった。
(了)
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