皆が盗む!

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「家の中は掃除もしないでぐちゃぐちゃ、和孝の事もほっといてスマホばっかりなんだってな。家事と育児くらいやれよ」 「あなただって家にいるんだからやってよ、私にばかり押し付けないで」 「最近は俺しかやってねえだろ。何様だ」  そう言うと機嫌悪そうに部屋に行ってしまった。息子もプイっとそっぽを向いて自分の部屋に行ってしまう。誰もわかってくれない、どうしてなの。もういい、私が自分でなんとかするしかない。もう夫を頼りにするもんか。  その翌日だ。とうとう財布がなくなった。  夫だ。昨日喧嘩したから嫌がらせだ。今までの盗みも夫なら全部当てはまる、なんてことなの。あとは和孝もそう、あの子が盗んでも誰もわからない。不審人物が映らないわけだ、だって家族なんだから。許さない。  私は怒りに任せて離婚届を書いた。そしてその日の夜、怒りをぶちまけて離婚届を叩きつける。絶対に、謝っても許してやらないから。 すると夫は。静かに離婚届を書いた。 「俺も離婚しようと思ってたから丁度良かった。もうお前とは暮らせない。和孝は俺が育てる、いいな」 「はあ!? 何偉そうにしてるの泥棒のくせに!」 「和孝、パパとママどっちと一緒に暮らしたい」 「パパ」  和孝の淡々とした言い方に私はショックを受ける。そんな、彼が忙しい時も家事をしない時もずっと私が育ててきたのに! 裏切られた、この二人もグルだったんだ! 「そこまで言うなら好きにしなさいよ! 最低!!」  荷物をまとめて、バタン! と大きな音を立てて妻、だった女は出て行った。和孝はぐすん、と鼻をすすり泣き始める。 「ママは何で急に嘘つきになっちゃったの? 遊園地に行くって約束も、公園で遊ぶのも、ゲーム買ってくれるって言ったのも全部嘘ついて。授業参観も来てくれなかった。僕発表するから絶対見に来てねって言ったのに」  泣き始める息子の頭を撫でながら、父は優しく言う。 「きっと、ママはパパたちの事が嫌いなんだよ。仕方ない」  息子を寝かしつけ、男は自室に戻ると鞄から封筒を取り出した。協同病院、と書かれた封筒には診断書が入っている。それを無感情に見つめた。
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