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東御が目の前で見た花森は、自分の主張に自信を持っていた。
花森はもともと芯が強くてしっかりとしているが、源愈と話している時の様子には揺るぎない自信を感じた。
「人権の観点で考えたからこそ、主張に自信が持てたのは間違いありません。でも、妻としては別です。八雲さんの生徒さんに見られた時に『あんな人が奥さんだなんて』と思われるでしょうし、会社で私が何もできない社員だとそのうちバレていけば『東御課長の奥さんって使えない』って思われます」
「……考えすぎじゃないか?」
「それに、私、八雲さんに暴力的なことをしちゃうじゃないですか……多分、家庭内DVで悩ませちゃうと思うんです」
「いやあれは、行為上のことだろう。確かに痛いが、嫌ではないし……」
抱きしめながら背中をさする東御は、花森がそんなことでも不安になるのだと知った。
急に襲ってきたらしいマリッジブルーは、源愈よりも花森を悩ませる。
「人を貶したい奴は誰に対しても言う。あと、聞かなかったことにして欲しいんだが沙穂の採用理由を読んだ。しっかりとしたジェンダー論に、会社を変えて行ってくれる可能性を感じたらしい。アパレル業界は現在難しい問題を抱えている。沙穂の価値観が必要だ」
「……私の価値観が、ですか?」
「ああ。年寄りには、この辺の感覚は分からない。生まれてくる時代が10年違えば人間の価値観は大きく変わる」
花森は目を見開いて東御を見上げた。心底驚いたような顔をしている。
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