夜の誕生日

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夜の誕生日

東御は花森の髪を撫で、顔に触れる。 花森は東御の腕の中でまどろみ始めていた。眠そうな瞼に唇を当てると首筋に吐息を感じる。穏やかな誕生日の夜だ。 「お誕生日、おめでとうございます……」 「ありがとう」 「もう、何回言ったんだろ……聞き飽きました?」 「いいや?」 東御が柔らかく微笑む。 人は眠くなると嘘が付けないらしいが、花森がずっと誕生日を祝福してくれているのは、いよいよ頭が働かなくなったからだろうか。 「朝になったら、忘れてくれていそうだから……昔話をしてもいいか?」 「はい。ちゃんと憶えてたいですけど……」 「あまりいい話ではない。華道が勉強に似ていたという話だ」 「へえー……知識が大事なんですか?」 「基本的には知識がないと何もできない。あとはそれを身体に叩き込む」 「その辺はスポーツみたいですね」 「そうだな。『道』の世界は大体共通してそんな感じだ」 東御は小さな頃の自分を思い出す。最初の頃に動きがぎこちなかったのは、慣れない着物の可動域に四苦八苦したからだった。徐々に要領を得ていくと、見える世界が変わっていく。目の前に集中して、立体図案を描くように活けた。
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