1176人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の誕生日
東御は花森の髪を撫で、顔に触れる。
花森は東御の腕の中でまどろみ始めていた。眠そうな瞼に唇を当てると首筋に吐息を感じる。穏やかな誕生日の夜だ。
「お誕生日、おめでとうございます……」
「ありがとう」
「もう、何回言ったんだろ……聞き飽きました?」
「いいや?」
東御が柔らかく微笑む。
人は眠くなると嘘が付けないらしいが、花森がずっと誕生日を祝福してくれているのは、いよいよ頭が働かなくなったからだろうか。
「朝になったら、忘れてくれていそうだから……昔話をしてもいいか?」
「はい。ちゃんと憶えてたいですけど……」
「あまりいい話ではない。華道が勉強に似ていたという話だ」
「へえー……知識が大事なんですか?」
「基本的には知識がないと何もできない。あとはそれを身体に叩き込む」
「その辺はスポーツみたいですね」
「そうだな。『道』の世界は大体共通してそんな感じだ」
東御は小さな頃の自分を思い出す。最初の頃に動きがぎこちなかったのは、慣れない着物の可動域に四苦八苦したからだった。徐々に要領を得ていくと、見える世界が変わっていく。目の前に集中して、立体図案を描くように活けた。
最初のコメントを投稿しよう!