夜の誕生日

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「兄は……知識はあるがどうしても所作に問題があった。それに比べて俺は動きに華があるらしい。何しろ、この通り見目がいい」 「自分で言っちゃうんですか?」 「ずっと言われてきたんだ、受け流せ。顔で売っている華道家だと揶揄されている」 「……そんな風に、バカにした言い方はよくないです」 東御は花森の額に唇を当てる。眠くても普段の花森らしい。 「東御流の宣伝は俺が担って来た。イベントに出たり、大勢の女性が集まる場で実演をしたり、そういったことをやるのも現代で流派を残すためには重要だったりする」 「華やかですね。私の知らない八雲さんだ……」 「内心はらわたが煮えくり返っていたさ。父の駒になり、兄の補完でしかない。こんな伝統芸、俺が潰してやろうかと思いながら人前に立っていたこともある」 「……それなのに、どうして」 花森はつくづく不思議だ。東御の口から出てくる華道は、まるで東御を救っていない。
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