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「どういう意味だ」
「そのままの意味です。一歩間違えるとパワハラですよ」
「新人に気を遣ったらパワハラか」
「本当に気を遣ったらそんな言い方になるでしょうか?」
睨み合う東御と花森。
「お言葉ですが、東御さん。私たちは先輩社員の仕事から学ばなければいけない身です」
「そうだろう」
「ですから、先輩には私たちに教えようという気を持っていただかないと」
「それは俺の仕事じゃない」
「いいえ、東御さんのお仕事です」
東御は花森に睨みをきかせるが、全く怯む様子はない。
「東御、しばらくの間、お前のサポートに花森を付けるから」
そこに、離れた場所から営業部の部長が声をかける。東御は自身の耳を疑った。
目の前の新入社員を自分のサポートに付けろ、と部長が言っている?
「部長。俺付きの担当はベテランを望んだはずです」
「却下だ」
「何故ですか」
「ベテランが辞めるだろ」
東御のサポートを務めてきた派遣社員の退職率は異様に高い。
理由は単純で、細かすぎる、口うるさすぎる、といったものだ。
部長としては、これ以上被害者を増やすわけにはいかない。そこで花森に白羽の矢が立った。
「花森さん、東御に問題があったらすぐに言ってね。東御、ちょっと仕事に細かいんだよ」
新人の花森は、ハッキリと物事を言うタイプらしい。部長はそこに目を付けたに違いない。
「はい!」
元気に答える花森を前に、東御は舌打ちで答えた。
新卒社員に自分のサポートを務めるのは無理だろうと思っているからだ。
この時、東御八雲は知らなかった。
何日持つかと見くびっていた花森に、初めての感情を覚えることを。
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