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「脅迫じみた、ですか。何のことか分かりませんね」
「そうでしょうね。脅迫に当たりそうな言動だけはしっかりと避けていらっしゃるところは流石だと思いました。不勉強な方が多いので、こういったケースでの脅迫罪は簡単に成立してしまうのが普通なのですが」
「……東御流の宗家ですから、最低限の法律を知らないと弟子が路頭に迷います」
「そうですね。例え実刑が2年以下で30万円以下の罰金程度の軽犯罪でも、罪歴がついた代表というのは見栄えが悪いものです」
横で聞いていた東御は、ポカンとしながら花森の発言を聞いている。
花森が法学部を卒業しているのは知っていたが、これまでの会話で源愈の問題点を探っているとは想像もつかなかった。
「それでは、源愈さんもご存じのはずです。子は親の持ち物ではありません。人権に則り、大人しく身を引いてください」
「……断った場合は?」
「私たちは成人していますから、個人の判断での契約、つまり婚姻に踏み切ります。妨害をなさるおつもりなら、全面的に戦いましょう。大人らしく、次は法廷で」
花森は余裕の笑みでにっこりと笑う。
大学のOBやOGは優秀な法曹関係者ばかりだ。相談先には困らない。
「親を脅すお嬢さんだったとは。どんな教育を受けていらしたのか底が知れますね」
「三橋大学法学部法律学科を、春に卒業したばかりです。私の底が知れて満足ですか?」
にこやかに返しながら、ポケットから赤いランプが点いたICレコーダーを取り出しテーブルに置いた花森に、源愈が言葉を失う。
子どもの結婚に反対をして嫁に訴えられたとなっては、実刑がなくとも社会的なダメージは計り知れない。何かをした事実が明るみになれば信用を失う。
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