不束な嫁

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「議論が得意なんだな。どこであんな技術を身に着けた?」 「法学部は、在学中ずっと議論ばかりですよ」 「そうなのか……」 「少なくとも、私の大学はそうでした」 「かっこよかった。いつも思うが、沙穂は格好良い女性だな」 「そうですよ? 私の格好良さを舐めないで下さい」 得意げな顔をする花森の鼻に、東御は鼻を軽くぶつけるようにしてからそっと唇を重ねる。 「チェックインは午後からだと思うが、今日はここに泊まって明日の朝はここから出勤しよう。部屋から庭を見れば新郎新婦の写真撮影風景が見られる」 「私、この格好で会社行って大丈夫ですか?」 「ああ、オフィス向きにも見えるから問題ない」 「……普段と違うから何かあるんじゃないかと思われそうです……。着替えに下着とシャツくらい買いたいんですけど」 「結婚予定を宣言しているんだから、業務時間外に何かあるのが普通だろう。下着やシャツはその辺でいくらでも手に入る。そうと決まったら、必要なものを手に入れに行くぞ」 東御は花森と手を繋ぎ、先ほどのエレベーターに乗り込んでロビー階で降りる。 当日予約をとって支払いを済ませると、花森の手を引いて急ぎ足で建物から出た。 「待ってください、早いですよお」 ヒールのついたパンプスで一生懸命歩く花森を、東御はしまったと振り返る。 「タクシーを使うか?」 「いえ、すぐそこに駅ビルがありますし」 苦笑した花森を見て、東御は気まずそうに手を繋いでいない方の左手で首を掻く。 「気持ちが逸る。今のうちに沙穂を思い切り甘やかして、明日にでも入籍したいと思わせたい。俺はもっと沙穂に求められたい」 「ちょっ……こんな街中で何をおっしゃっているんですか……!」 花森は東御に対して焦りながら、周りの人通りを気にして首から上が真っ赤になっている。 「街中で白状したくなるくらい切実だ。跪いてプロポーズし直したい」 「いいです、そんなことしなくても……」 花森は左手を東御に握られたまま言葉に詰まる。 周りに人が行き交っているのを見ながら、こんなところで話すことではないと首を振った。
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