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「結婚って、リスクが大きすぎると思いませんか? 八雲さんは私と離婚をしたら財産分与の問題が出ますよ?」
「ちょっと待て。さっき父親に啖呵を切ってくれたのは……」
「それはそれです。父親としての源愈さんに問題があると思ったので」
一連の会話をしていて、東御は愕然とする。
頭が良いというのも考えものだ。花森は離婚に対する知識が多すぎる。
この間までは結婚に納得してくれているようだったが、やはりどこか引っかかるところがあるらしい。東御は頭を抱えた。
人通りの多い表通りから一本道を入って行き、ビルの裏手にある静かな駐車場で立ち止まる。
「沙穂は、結婚にまだ不安があるのか?」
「無いと言ったら嘘になります。それ以前に、八雲さんにとって私……」
「あんな風に、あの父親に対抗できる女がこの世にあと一人と居るとは思えない。沙穂が必要なら財産くらいくれてやる。至らない夫になるかもしれないから、直した方が良いところは常にお互い話し合おう」
「やっぱり、八雲さんと私じゃ釣り合わない……」
「俺が沙穂以外を愛せると思うか?」
「でも……そのうち、取り返しのつかない失敗をしてしまうかもしれません」
東御は、具体的に不安が襲って来たらしい花森を静かに抱きしめて背中をさする。
「俺が、沙穂と別れて別の誰かと結婚しても良いのか?」
「嫌です」
「俺も、沙穂が誰かと付き合うなんて考えたくない」
「……それは、そうですよね」
「これから過ごす季節が、全部沙穂と一緒のものであって欲しい。どんなことが起きても、それは沙穂を選んだ宿命だと思う」
花森はこれまで何度でも考えた。
華道家の東御八雲を支える妻としても、れいわ紡績の営業課長の妻としても、自分で良いのかという気持ちが消えない。
東御と暮らす毎日に不満はない。会社で公の関係になったことすら、恥ずかしくても温かな気持ちを覚えた。
「自分に自信が無いからだと思います」
「あんな風に堂々と議論ができるのに、か?」
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