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第1話 プロローグ
この国は、聖女の祈りによって支えられている。
とは言っても、今では聖女の祈りは形式上のものであって、聖女も単なるお飾りに過ぎない――と多くの国民はそう思っている。
しかし、聖女が唯一無二の存在であり、崇拝の対象であることは、今も昔も変わらない。
私が生まれたこの家は、この国の礎を築いたとされたという高名な聖女を先祖に持つ、国一番の旧家である。
聖女の血を継ぐ者――代々、母から娘へと聖女の座は受け継がれてきた。
現在、聖女の座に就いているのは、私の母エリザベートである。そして、次期聖女になるのは、現聖女エリザベートの娘である私、マリアだ。
聖女はただ祈ればいいだけの存在ではない。国民に尊敬される存在でなければならない。
そのため、祈りの作法や儀式に関することだけではなく、一般教養やマナーも完璧に身に着ける必要があった。
さらには、自らを厳しく律し、常に国民のことを考え、国民に寄り添うこと――それこそが聖女のあるべき姿だと私は考えている。
だから、私は何事にも手を抜かなかった。
「マリア様に私が教えることはもうございません。大変美しい所作でございました」
「ありがとうございます、先生」
私は恭しく頭を下げた。
今日は儀式について学んだ。この儀式は、国民の見ている前で行われるため、間違いがあってはならない。ところが、儀式の時間自体が長い上に覚えることが多いため、最も過酷な儀式と言われていた。
「マリア様と同じ年齢で、ここまで完璧に覚えられた方は、歴代の聖女様の中でもいらっしゃらなかったのではないでしょうか? マリア様はきっと素晴らしい聖女様になられますわ」
私を含め、誰もが私が理想的な聖女になれると信じて疑っていなかったと思う。
そんなある日、私は母に呼ばれた。
母、と言っても、母である前に聖女であり、多忙の身である。娘の私ですら母に会うのは久しぶりであった。しかも、母から直接呼びつけられることなど滅多にない。
(何か緊急の用事かしら……?)
私は不安に思いながらも母の執務室を訪ねた。
執務室に入ると、中には母と、見知らぬ少女がいた。
「この娘はカタリナ。あなたの妹です」
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