850人が本棚に入れています
本棚に追加
カクテルをテーブルに置き、
「ラムバック。ホワイトラムにジンジャーエール、カレーに合うけど、匠にはアルコールがちょっと強いかも知れないから気を付けて」
薄くスライスされたばかりのレモンがグラスの中で氷と並んでいる。ワクワクした匠。嬉しくてグラスを持つと、
「一気に飲むなよ!」
すかさず涼に制されて、一瞬止まる。
こくん、と頷き少しだけ口にした。
「美味しい!」
飛び出そうな目で匠が涼に、嬉しそうな笑顔を見せた。
「だろ」
満足気に涼も『ラムバック』を飲む。「美味いな!」と笑いながらグラスを持ち上げて自分で作ったカクテルをマジマジと見た。
「で、彼女とは?出来る様になった?」
突然、涼がそんな事を訊いて来たので、ふっとあの日の事を思い出して、目が泳いだ。
「あ、えっと… 」
「嘘、嘘、ごめんな」
ふふっと笑って涼は一気にカクテルを飲み干すと、キッチンでグラスを洗い、ダイニングを出て自室に戻る。
視界の中で涼の後ろ姿が流れて行き、その端から、涼が消えて激しく胸が痛んだ。
あの日を思い出して、匠は下半身が疼いた。あの日の様に涼に乱暴されたいと、そう思う自分は異常だと思い、早々にカレーを食べ終え、涼が作ってくれたカクテルを飲み干して片付けをしていた時に、慌ただしく柚月が帰って来た。
「あ、匠」
「柚月さん、どうしたんですか?」
「豪雨で土砂災害が起きて、救援に出る。恐らく長く戻れないと思うから、涼にも伝えておいてくれ」
柚月は自室に必要な物を手早く揃えると、出て行く寸前に、何処かの店のレシートを匠に渡した。
「小雪さんの為に買っていた花の、店。暫く行けないからって、伝えて貰えるか?」
「え?」
「いつも買いに行ってたから、それを見込んで仕入れていたら申し訳ないから」
靴を履いて、頼んだぞ!と、匠が了解していないのに、そう言って柚月はバタバタとして出て行った。
「絶対だぞ!」
と、強めに言うと匠を人差し指で指した。
✴︎✴︎✴︎
「あの、すみません… 」
「はい、いらっしゃいませ!」
元気に答えて振り向いた花屋の店員は、小柄で目がくりくりとした可愛い女性だった。
「柚月さん、あ、えっと清里さんの方が分かりますかね?」
柚月に渡されたレシートの花屋に、匠は足を運んだ。
「はいっ!消防署の清里さん、ですよね?」
弾ける笑顔を匠に見せた。
ああ、そうか、恋愛に疎い匠にも分かった。きっと柚月はこの女性に想いを寄せている。失敗のない様にしなければ、と匠は気を張った。
「そ、そうです!清里柚月からの伝言ですっ!」
はい?と、女性は目をぱちくりとして手を前に組み、匠の言葉を待った。
あ?匠?
花屋から少し離れた所で、仕事に行く前、買い物に出ていた涼が匠に気付いた。
何?花屋で何してんの?首を動かして様子を探る。
彼女に花でも買って行くのか?何だかんだ言って、ちゃんとしてんじゃん、とニヤリとした次の瞬間、ズキンッと胸が痛んだ。
何?この胸の痛み。
モヤモヤして不機嫌になる涼。
「彼女に花束?洒落てんじゃん」
花屋の店員と話している途中で、涼が現れた。
「涼さんっ!」
匠の顔からハートが飛び出た。
最初のコメントを投稿しよう!