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そもそも、その相手限定で性欲を感じないのか、誰という事なく何も感じないのか、アロマンティックなのかアセクシュアルなのか、どうなのか。
「何ですか?それ」
「他人に恋愛感情だったり、性的欲求を抱かない人」
涼がサラリと言う。
「あ… 」
当てはまる様な、違う様な、ピンと来ない匠だが、涼に対して高鳴るこの胸のときめきは何なのだろう、と戸惑う。
「涼さんは色んな事、知ってるんですね」
自分は教師なのに… と少し落ち込む。
「色んなお客さん来て話し聞くからね。… だから、オナニー、してる?」
そうか、そういう事で涼さんは訊いているのだから、きちんと答えなければ、と思う匠だが恥ずかしくてなかなか言い出せない。
顔をこれ以上ない位に真っ赤にして、汗を掻きながら俯いて目をパチパチさせている匠が、何だか可愛く思えて揶揄ってみたくなる。
「その顔は、してるんだろ?」
「あ、いえ、いえ…… は、い… 」
涼の顔が見れない。
「何見ながら、オナニーしてるの?」
俯いたまま、目を泳がせている。
長いまつ毛が瞬きするたびに動き、薄い唇が色っぽい匠に、涼は少しいじめてやりたい気持ちが生まれた。
「オナニーしてるって事は、勃起はするんだ」
「あ、あの自分、部屋に…戻ります!」
もうこれ以上は無理だと、食べかけの弁当をまとめて立ち上がる。
その時にまた、“パキッ” と大きなラップ音が聞こえ、ビクッと涼にも分かる程に身体が動いた。
「怖くないよ、小雪さんは何もしないから大丈夫だよ」
そう言って頬を撫でられて、ドキドキとして動けない。涼の唇が匠の唇に近付く。思わず息を止めて、生唾を飲む音がゴクリと鳴る。
触れる寸前に一度顔を離し、匠をジッと見つめた。
「あ、の… 小雪さんって?」
鼻先が触れる程の距離のまま匠が訊いた。
ジリジリと、リビングのソファーまで見つめたまま匠を追い込む。
「ここで自死した人」
一瞬目が見開いた匠の唇を塞ぐと、そのままソファーに押し倒し深いキスをする。
舌が這入り悪戯気に舌先で上顎をなぞり、そのまま大きな口を開けて絡ませる。くちゅくちゅと音を立てて、何度も舌で口内を犯す。
驚きと、何ともいえない胸の高まりが分からない匠が我に返って、涼を突き飛ばすと立ち上がって庭に面した掃き出しの窓の方へ逃げた。
「な!何をするんですかっ!」
手の甲で口を押さえ、半分泣いている。
ん? とした顔をして、また匠の近くに寄る涼。
「俺、男とキスしたの初めてだけど、匠の唇、柔らかいね」
ふふっ、と微笑みながら匠を窓に追いやると、また顔を近づけた。
「や、やめて… くだ、さい… 」
涼の視線から逃げるように顔を俯かせ、これ以上近寄れないように両手で胸を押さえる。
「ん?でもほら、勃ってるよ。キスして勃つじゃん、出来るじゃん、セックス」
匠の硬くなったモノをスラックスの上から握り、軽く扱いた。
「ほ、ほん… と、う… に、や、やめ… 」
涼の手を掴み、必死に抵抗をするが扱く手が止まらず、「あ!」と真っ赤な顔をして、今度は思いっ切り、力の限り涼を突き飛ばした。
「え?イっちゃった?」
涼の言葉に、真っ赤な顔のまま唇を噛み、涙を滲ませてドタバタとリビングを出て自室へと走って戻って行った。
え?嘘だろ?
俺も、勃ってる… やだ。
男相手に、流石に自分にドン引きした涼。
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