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「お前だって、好きでもない女と結婚するんだろう?裏切りは変わんねぇじゃん」
涼の言葉に匠は胸を痛め、柚月は視線だけで空気を読む。
「そ、そうですね… 」
引き攣った笑顔を見せる匠が不憫で、柚月が涼を責めた。
「匠に、何をしたんだよ」
「ん?キスして、アソコを弄った」
何でもない様に涼は言い放ち、匠も柚月も絶句する。
「お、お前っ!何でそんな事っ!!」
柚月が涼に掴み掛かろうとすると同時に、匠が柚月の腰を抱えて押さえた。
「違いますっ!自分が誘ったんです!自分が涼さんを誘って、キスして貰ったんです!」
え?
すぐに嘘だと分かる。必死に訴える匠を痛々しく思って心配そうに目を遣り、涼に視線を動かすと、渋面で匠を見ている。
「じゃあ、そういう事でいいんじゃん?」
本当の事を言う事も、言い訳を並べる事もどうでも良くなった。きっと、匠は出て行く、そう、涼は思ったから。
「実家に戻ります」
匠がポツリと言った。
ここに越して来てもうすぐ一ヶ月になる頃で、やっぱりそれ以上は誰もここには住めないのだと柚月は思い、軽く溜息をつく。
いつもの事だ、何も残念がる事は無い、柚月も涼も同じ思いで匠を見つめた。
それでも、こんなに近しくなれたシェアメイトは初めてで、正直落胆の気持ちも大きい。
「短い間でしたが、お世話になりました。楽しかったです」
深々と頭を下げて、リビングダイニングを出ようとした時に、ふと思い出す。
「あ、あの… また小雪さん、現れますかね?」
振り返り涼と柚月を見た匠の顔は、怯えながら助けを乞う顔で、思わず
「「俺の部屋で寝るか?」」
二人出した声が揃い、顔を見合わせた。
「お前は駄目だよ」
柚月にキツめに言われてカチンとくる。
「何でだよっ」
「匠を襲うだろ」
「おっ、襲わねぇーよ!あれはただの悪戯だよっ!」
匠にキスをした事を言った。
悪戯されただけなのに射精をしてしまった匠は、尚更落ち込む。
「じゃ、じゃあ、柚月と寝ろよ。それなら安心だろ」
少し不貞腐れて見える。
「それじゃあ、匠、俺の部屋へおいで」
柚月は匠の背中に軽く手を置き、二階へ行こうと促した。
なんだよ、涼は何だか全く酷く、不愉快でたまらない。
チラリと涼に目線を寄越した匠の澄んだ瞳は、少女の様でドキリとする。
「おっ!俺も一緒に寝よっかなー」
リビングを出かけた二人の背中に言葉を投げた。
「は?勘弁してくれよ」
柚月の言葉にブチ切れる涼は、階段を登って行く二人に悪態をつく。
「なんだよ!ばーか!そうやって仲間はずれにしてればいいだろ!」
いいんですか?と匠が不安そうに柚月の顔を見るが、ケタケタと笑って涼をそのままに置いた。
「ああ見えて、涼、案外可愛いだろ」
匠の耳元で囁いた。
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