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花屋にいる匠を見かけて、何故だか御機嫌斜めになっている自分に戸惑いながらも、極力普通に話しかけた。
「今日、デート?彼女に?」
こめかみに怒りマークが浮いているのが、自分で分かる涼。
「違います!柚月さんに頼まれて!」
思いもかけず涼に会えた匠は、嬉しくて堪らない。
簡単に事情を説明すると、涼もすぐに察した。
「いつも清里が助かっています。綺麗なお花をご用意して頂いて」
そんな風に言う涼は、世界で一番にイイ男に見えた。
花屋の、おそらく柚月が想いを寄せているだろうこの女性も、ぽっと頬を赤らめている。
色んな意味で良くない、と思う匠。
「戻ってきたら、またお花を買いに来ますので、よろしくお願いします、との事です!」
涼に比べたら、随分と気の利かない事しか言えない自分に気が沈む。
「分かりました、わざわざ有難うございます」
花屋の店員は頭を下げると、
「清里さんに、どうぞお気を付けくださいと、お伝えください」
と、少し恥ずかしそうに微笑んだので、匠と涼は胸の中でガッツポーズを取る。
何だかいい事をした様な気がして、二人の足は少し弾んでいる。
「柚月にメールしといてやろう」
涼が笑顔でスマホを手にした。
「自分が、自分が柚月さんに頼まれたんです!自分がしますっ!」
いつになく、我を張る匠に眉を顰める。
「お前からのメールじゃ面白くねーよ」
絶対に固い文章になると思ったから涼はそう言ったが、思いの外に匠が落ち込んでいるので気が咎めた。
「じゃ、じゃあ、お前のスマホで、二人からって送ろうぜ」
覗き込む様に匠に言うと、ぱぁっと明るい顔になり、お願いします!とスマホを涼に渡した。
「あ、ああ… 」
スマホを受け取り、花屋の女の子からの言葉を打ち込んで、ひと言添える。真横でびったりとくっ付いて、匠がスマホを覗き込んでいる。少しドキリとする涼。
「こ、これでいいか?」
勢いに負けそうになりながら、匠に確認する。
「はいっ!」
堪らなく嬉しそうな顔が、涼の胸に刺さった。
「涼さん、これから仕事ですか?」
仕事の時の、オールバックの髪型が眩しい。
「ああ」
素気なくひと言だけ答える。
「お店に行ってもいいですか?」
涼を見ていたい、そう思う匠。
「店で飲んだら高いだろ、家で作ってやるから」
そう言ってスマホをいじりながら隣りを歩く涼を見て、考えてみたら、こんな風に二人で並んで街を歩くのは初めてだと気が付き、嬉しさが込み上がる。
「歩きスマホは駄目ですよ」
それでも、いけない事は注意をした。
「はいはい」
珍しく涼が言う事を聞いて、スマホをスラックスの後ろポケットにしまう。
「店、17時からだけど」
「行っていいんですか!?」
行っては駄目なのだと思った匠は、嬉しくて大きな声を出した。
「あ?ああ、どうしても来たいならな」
偉そうに涼が言う。
「17時まで、何処かで時間潰しています!」
匠に目をキラキラとさせて見られた涼が、
「ああ… 」と少し照れた様にこめかみを掻いた。
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