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家に帰り入浴をしながら、店を出る時の涼の顔を思い出して少し気持ちが沈んだ匠。
何かしてしまったのかと、思い返すが心当たりがない。
はぁ〜、とため息をつき、それでもあまりに素敵過ぎた涼を思い返して頬を赤らめた。
ふと、また、あの日の事を思い出してしまう。
ソファーに押し倒されキスをされた。絡まる涼の舌を思い出し、股間に触れた手の動きを思い出し、下半身が熱くなって、勃起する。
駄目だ、と思う。何とかおさまってくれと、両手で硬く大きくなった自分のモノを押さえた。
あの日から匠は、思い出してしまっては、それで自慰をしていた。それまでは、夢精をしてしまうのが嫌で、定期的に感情無しで精液を出す作業をしていただけ。感情が無いから出るまでに時間が掛かるし、痛くなる事もあって決して気持ちの良いものではなかったのに、涼の事を思ってするのは、すごく気持ちが良くてすぐにイッてしまう。けれど、どうしても罪悪感に苛まれてその後が嫌で堪らない匠。
それでも、手が自然と硬くなった自分のモノを握り、上下に動く。身体を洗っている途中だったので、ボディシャンプーの泡が余計に気持ちがいい。我慢出来なくなって、激しく扱いた。はぁはぁ、と声が出るが誰もいないから、そこは安心出来た。
イってしまう。
ズン、と落ち込んで、身体の泡を流すと浴槽に入り鼻の下まで湯に浸かり泣きたくなる。
翌朝、家を出る時、涼は寝ていたので顔は合わせずに済んで安心したが、やっぱり顔が見たいとも思い匠は切ない。
学校では男子生徒を見ては、皆どうしているのだろうと考えてしまう。この歳の頃の匠は、頻繁に夢精をしてしまっていたので、思い出すのはパンツを手洗いしていた事ばかりだ。
ハッと、何て事を考えているんだと我に返り真っ赤な顔になる。
「中条先生、どうしたの?」
社会科準備室に入ってきた二人の女子生徒が、匠の顔を覗いた。
「な!何でもないぞ!どうした!?」
「ほら、先生に相談しなよ」
一人の生徒が、もう一人の生徒を肘で突ついた。
「どうした?進路か何かの相談か!?」
元気いっぱいの声で訊く。
「言っていい?」
肘で突ついた生徒が、もう一人の生徒の顔を覗き込みながら確認する。
「美奈、彼氏からいつも求められて、どうしていいか分からないんだって」
「何を求められるんだ?」
内容が分からない匠は、にっこりと笑って問い掛ける。
「え〜、中条先生って、結構意地悪ぅ〜」
意味が分からないので眉を顰める。
「この学校で一番のイケメン先生って中条先生だから、きっと経験豊富だろうと思って訊きに来たんです」
ん?何の経験かな? 胸の中で問う。
「何度も断る彼女って、別れようと思いますか?」
黙っていた当事者の生徒が、顔を赤らめて質問してきた。
頭の中で幾度か言葉を変換したり、その先を想像したりして訊いている意味が分かって突然狼狽える。机の上の書類や教材を肘でドサドサと落としてしまい、汗だくになってそれらを拾う。
「そ、そういう事を先生に訊くのはどうかな?」
汗だくの顔が引き攣る。
「え〜、だって先生、そういう話しとかも聞いてくれそうだもん」
当事者でない生徒が口を尖らせた。
「せ、先生は、そういう話はしないな」
ピクピクと頬を引き攣らせる匠を、二人の生徒がジッと見て
「だから体育のゴリの方がいいって言ったじゃん」
「えー、ゴリは経験ないよ、あんなモッさいの!」
ヒソヒソと話して、チラリと匠に目を遣り
「先生、この事は内緒ね」
人差し指を口に当ててウィンクをすると、準備室を出て行った二人。一生分の汗を掻いた気がして、ぐったりする。
あの年頃は、皆あんな感じなのだろうかと匠はため息をついた。
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