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初めての体験
キッチンのレンジで焼き鳥を温める匠。
涼も食べてくれるかも知れないと思って、沢山買ってきてしまった。明日も食べれるだろう、そう思って半分は冷蔵庫にしまう。
冷凍したご飯を解凍し、丼に入れて温めた焼き鳥を乗せ、その上に刻み海苔と炒りごまを散らして『焼き鳥丼』。インスタントの味噌汁も入れて。
「小雪さん、自分は駄目ですね」
ダイニングで一人夕飯を食べながら、見えない小雪相手に話し始めた。
「結婚するというのに、涼さんを想ってしまって、自分は結婚相手を裏切っている。でも、涼さんへの気持ちがどうにもならなくて… 」
涙が滲んできた匠の肩が、じんわりと温かくなるのを感じる。小雪が匠の肩に手を当て、悲しそうな顔をしているのは、匠には分からない。
カチャっと玄関の扉が開く音がすると、肩の温かさがスッと無くなる。
「いい匂いだなぁ、焼き鳥?」
涼が帰ってきた。えっ!?と思って満面の笑みを浮かべてしまう匠。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
にこにこして訊く。
「うーん、なんか気が乗らないから飲み、断っちった」
「そうなんですか!」
嬉しそうな声で言ってしまって、匠は顔を赤らめた。
「美味そうだな」
匠の焼き鳥丼を見て笑った。
「あ!ありますよ!涼さんも食べますかっ!?」
「そうなの?いいのか?じゃあ、何か飲む?作るよ」
夢の様だと匠は思った。女性に会いに行くのだろうと思って落ち込んだ心が、こんなにも高く舞い上がっている。
「焼き鳥、そのまま食べますか?」
冷蔵庫に入れた焼き鳥を取り出して涼に訊く。
「匠の、美味そうだな」
じゃあ、焼き鳥丼作りますね!と泣きそうな笑顔で応えた。
涼が作ってくれたカクテルを飲みながら、匠が用意した焼き鳥丼を食べて、他愛のない話しをしながら時間が過ぎた。
このまま、時が止まって仕舞えばいいのに、匠は思った。
そうしたら、自分は結婚などせずに涼の傍にずっと居れる。涼の顔をずっと見ていられる、涼の声をずっと聴いていられる。その為なら、涼の為なら何でもする、そう思って流れる時を匠は恨めしく思った。
「あ〜美味かったな!」
椅子の背もたれに大きく寄り掛かり、腹を摩る涼。
「お風呂、どうしますか?片付けしますから涼さん入ってください」
涼が作ってくれたカクテルのアルコールの酔いがまだ残り、にこにこして匠が涼に訊いた。
「片付け、一緒にするよ」
そう言って涼は、テーブルの上の食器を運んで、シンクで洗い物を始める。
隣りに立ち、洗い終えた食器を拭く匠は幸せを噛み締める。
「俺、上のシャワーで済ますから、匠は風呂入れよ」
「湯船に浸からなくていいんですか?」
いいよ、と涼は言うと二階へ上がって行く。また、下に降りて来てくれるだろうか、そんな事を願いながら匠は風呂に入る。
何故、今… 。
匠は身体を洗いながら唇を噛んだ。
また、勃ってしまった。
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