初めての体験

1/6
前へ
/56ページ
次へ

初めての体験

キッチンのレンジで焼き鳥を温める匠。 涼も食べてくれるかも知れないと思って、沢山買ってきてしまった。明日も食べれるだろう、そう思って半分は冷蔵庫にしまう。 冷凍したご飯を解凍し、丼に入れて温めた焼き鳥を乗せ、その上に刻み海苔と炒りごまを散らして『焼き鳥丼』。インスタントの味噌汁も入れて。 「小雪さん、自分は駄目ですね」 ダイニングで一人夕飯を食べながら、見えない小雪相手に話し始めた。 「結婚するというのに、涼さんを想ってしまって、自分は結婚相手を裏切っている。でも、涼さんへの気持ちがどうにもならなくて… 」 涙が滲んできた匠の肩が、じんわりと温かくなるのを感じる。小雪が匠の肩に手を当て、悲しそうな顔をしているのは、匠には分からない。 カチャっと玄関の扉が開く音がすると、肩の温かさがスッと無くなる。 「いい匂いだなぁ、焼き鳥?」 涼が帰ってきた。えっ!?と思って満面の笑みを浮かべてしまう匠。 「どうしたんですか?忘れ物ですか?」 にこにこして訊く。 「うーん、なんか気が乗らないから飲み、断っちった」 「そうなんですか!」 嬉しそうな声で言ってしまって、匠は顔を赤らめた。 「美味そうだな」 匠の焼き鳥丼を見て笑った。 「あ!ありますよ!涼さんも食べますかっ!?」 「そうなの?いいのか?じゃあ、何か飲む?作るよ」 夢の様だと匠は思った。女性に会いに行くのだろうと思って落ち込んだ心が、こんなにも高く舞い上がっている。 「焼き鳥、そのまま食べますか?」 冷蔵庫に入れた焼き鳥を取り出して涼に訊く。 「匠の、美味そうだな」 じゃあ、焼き鳥丼作りますね!と泣きそうな笑顔で応えた。 涼が作ってくれたカクテルを飲みながら、匠が用意した焼き鳥丼を食べて、他愛のない話しをしながら時間が過ぎた。 このまま、時が止まって仕舞えばいいのに、匠は思った。 そうしたら、自分は結婚などせずに涼の傍にずっと居れる。涼の顔をずっと見ていられる、涼の声をずっと聴いていられる。その為なら、涼の為なら何でもする、そう思って流れる時を匠は恨めしく思った。 「あ〜美味かったな!」 椅子の背もたれに大きく寄り掛かり、腹を摩る涼。 「お風呂、どうしますか?片付けしますから涼さん入ってください」 涼が作ってくれたカクテルのアルコールの酔いがまだ残り、にこにこして匠が涼に訊いた。 「片付け、一緒にするよ」 そう言って涼は、テーブルの上の食器を運んで、シンクで洗い物を始める。 隣りに立ち、洗い終えた食器を拭く匠は幸せを噛み締める。 「俺、上のシャワーで済ますから、匠は風呂入れよ」 「湯船に浸からなくていいんですか?」 いいよ、と涼は言うと二階へ上がって行く。また、下に降りて来てくれるだろうか、そんな事を願いながら匠は風呂に入る。 何故、今… 。 匠は身体を洗いながら唇を噛んだ。 また、勃ってしまった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

849人が本棚に入れています
本棚に追加