運命の出会い

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休みだったので、目覚ましをセットせずに寝入った涼。起きた時には日が沈みかけて、薄暗い部屋で包まった布団から腕を出し、手探りでスマホを探す。 何件もメールが届いている。 『今夜飲まない?』 『今度の休み、何処か出掛けない?』 そんな内容のメールに全部、ひとつひとつに相応なスタンプにひと言添える。 柚月からのメールを開けた。 『お疲れ、どう?新しい人』 『やたら元気いっぱいで、今までにはいないタイプ』 返信して、ふふっと笑う。 片付け、ひと段落してるかな?そう思いながら髪をかき上げ部屋から出る。扉を開けたまま片付けをしているから、廊下から匠が見えた。 「どう?捗ってる?」 開いた扉の框に手を当て、匠に声を掛けた。 「あっ!はいっ!殆ど終わりました!」 涼を見て、頬を赤らめる。 「じゃあ、家の中、案内するよ」 にこりと笑う涼の笑顔に、更に顔を赤らめる匠。 何だろう、このざわざわした胸は…と戸惑いながら涼の後ろに付いて歩いた。 いわゆる、デザイナーズハウス。 目に入る物は全部お洒落で洗練され、生活動線を何ひとつ邪魔しない。 「ここが浴室、上にもシャワールームがあるから。洗濯機を使いたい時は前もってこのボードに名前のマグネット、あ、後で作っとくから、それを付けて皆んな重ならない様にしてる。」 と、曜日が入ったマグネットボードを指差すと、浴室の脱衣場から出て隣りのドアを開ける。 「で、ここはトイレ…で、あっちの奥は物置だけど、あそこは管理会社が管理してる」 廊下の奥を指差して、あとは…二階は大丈夫かな? と言いながらリビングに入ると、 「じゃ、座って。一緒に住む為のルール、話すから」 ダイニングの六人が優に座れる立派なテーブルセットに手を遣り、匠に座る様促した。 「楠さんは、管理会社の方ですか?」 大きな声ではなく普通の声量に、また調子が狂う。 「え?違うけど」 「説明があまりに流暢なので、そうなのかと思いました!」 また出た大きな声に(やっぱな)と軽くため息をついた。 「何人にも説明してるからね、流暢にもなるかな?」 「何人にも?」 訝し気な顔をして涼を見る匠。 「何人もすぐに入れ替わってるから」 「何人もすぐに?どうしてですか?」 え?聞きてるだろ、そう思って至極当然の顔で見る。 「えっと…中条(ちゅうじょう)、さん?」 他人の顔と名前を覚えるのは特技の筈だった涼が、匠の苗字を不安気に訊いた。 「はいっ!中条ですっ!」 名前を呼ばれて紅潮する。 「契約の時に聞いただろう?」 「あ、はいっ!そうでした!」 何だったかな? と、思った匠だったが今更そうは言えず、知っている体で返事をした。涼に訊かれて「分からない」と言いたくなかった。後で管理会社に確認しよう、そう思い、笑顔で返す。
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