817人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
休みだったので、目覚ましをセットせずに寝入った涼。起きた時には日が沈みかけて、薄暗い部屋で包まった布団から腕を出し、手探りでスマホを探す。
何件もメールが届いている。
『今夜飲まない?』
『今度の休み、何処か出掛けない?』
そんな内容のメールに全部、ひとつひとつに相応なスタンプにひと言添える。
柚月からのメールを開けた。
『お疲れ、どう?新しい人』
『やたら元気いっぱいで、今までにはいないタイプ』
返信して、ふふっと笑う。
片付け、ひと段落してるかな?そう思いながら髪をかき上げ部屋から出る。扉を開けたまま片付けをしているから、廊下から匠が見えた。
「どう?捗ってる?」
開いた扉の框に手を当て、匠に声を掛けた。
「あっ!はいっ!殆ど終わりました!」
涼を見て、頬を赤らめる。
「じゃあ、家の中、案内するよ」
にこりと笑う涼の笑顔に、更に顔を赤らめる匠。
何だろう、このざわざわした胸は…と戸惑いながら涼の後ろに付いて歩いた。
いわゆる、デザイナーズハウス。
目に入る物は全部お洒落で洗練され、生活動線を何ひとつ邪魔しない。
「ここが浴室、上にもシャワールームがあるから。洗濯機を使いたい時は前もってこのボードに名前のマグネット、あ、後で作っとくから、それを付けて皆んな重ならない様にしてる。」
と、曜日が入ったマグネットボードを指差すと、浴室の脱衣場から出て隣りのドアを開ける。
「で、ここはトイレ…で、あっちの奥は物置だけど、あそこは管理会社が管理してる」
廊下の奥を指差して、あとは…二階は大丈夫かな? と言いながらリビングに入ると、
「じゃ、座って。一緒に住む為のルール、話すから」
ダイニングの六人が優に座れる立派なテーブルセットに手を遣り、匠に座る様促した。
「楠さんは、管理会社の方ですか?」
大きな声ではなく普通の声量に、また調子が狂う。
「え?違うけど」
「説明があまりに流暢なので、そうなのかと思いました!」
また出た大きな声に(やっぱな)と軽くため息をついた。
「何人にも説明してるからね、流暢にもなるかな?」
「何人にも?」
訝し気な顔をして涼を見る匠。
「何人もすぐに入れ替わってるから」
「何人もすぐに?どうしてですか?」
え?聞きてるだろ、そう思って至極当然の顔で見る。
「えっと…中条、さん?」
他人の顔と名前を覚えるのは特技の筈だった涼が、匠の苗字を不安気に訊いた。
「はいっ!中条ですっ!」
名前を呼ばれて紅潮する。
「契約の時に聞いただろう?」
「あ、はいっ!そうでした!」
何だったかな?
と、思った匠だったが今更そうは言えず、知っている体で返事をした。涼に訊かれて「分からない」と言いたくなかった。後で管理会社に確認しよう、そう思い、笑顔で返す。
最初のコメントを投稿しよう!