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結ばれない二人だから
土砂災害の救援に出ていた柚月が帰ってきて、いつもの日常が戻る。
翌日、早速ピンクと青のかすみ草を買ってくると、嬉しそうに小雪さんに供えた。
「ああ!やっぱり違いますね!」
色付きのかすみ草を見て、匠が声を上げた。
花屋の事が訊きたい匠がモジモジする。
「何?どうした?」
モジモジしている匠に向かって、訝し気な顔をした。
「あの、お花屋さんの女性、可愛いですね」
下から覗き込む様に匠が言うと、柚月はポッと顔を赤らめ直ぐに眉間に皺を寄せた。
「何?匠の好み?」
「違いますっ!違いますよっ!」
両手を顔の前でブンブンと振り、慌てて否定をして、にこりと笑った。
「そっちこそ、俺がいない間に匠と涼、随分と仲良くなってんじゃん」
意味あり気に柚月が言うので、匠は顔が真っ赤になり汗をドッと掻いた。
「え、あ… 」
嘘の付けない匠が、狼狽えている。
「まぁ、いいけどさ。一緒に暮らしてんだから、仲が良いのが一番だ」
二人の事を察した柚月は、敢えてそれ以上の話はしなかった。匠は結婚が控えている、一時の事だろうからと、深くは訊かない。
「涼も随分と変わったな」
「え?」
「殆ど他人に素を出さないのに、匠には出してる」
「そうなんですか?」
「素が出てたらアイツ、あんなにまではモテないだろ?」
天邪鬼の所があるからな、と笑って柚月が言った。匠には表向きの涼と素の涼の違いが分からなかったけれど、自分にそのままを出してくれている事が嬉しくて堪らなかった。
「匠は結婚するまでしか此処に居ないしな、結婚してからもたまには遊びに来てくれよ。住人以外が出入りしても、匠なら小雪さんも嫌がらないだろう」
暗にそう言われて匠はズキっと胸が痛み、引き攣った笑顔で頷いた。
✳︎✳︎✴︎
休みが重なった昼間、リビングのソファーに寝転がり本を読んでいる涼。最初の頃は食事の時以外はリビングダイニングに居る事はなく、自室で寛いでいたがここ最近はリビングに居る事が多く、匠は嬉しい。
「何の本ですか?」
匠が満面の笑みで訊く。あの日から特に二人が交わる事はなく、正直切ない匠。
「ん?ミステリー」
チラッと匠に目を遣って本に戻る。涼が本を読む事を知り新鮮だった。読書をしているし、邪魔をしてはいけないかな、と身の置き場に困る匠は落ち着かない様子でキッチンの方へ向かった。
「彼女と連絡取った?」
「あ、いえ、まだ… です」
涼の店に結婚相手を連れて行くという約束だった。涼が何も言わないのをいい事に、そのまま放っておいたが、そう訊かれて戸惑う。
ガバッと起き上がると、涼は匠を凝視した。
「あ、すみません。連絡、取ります」
涼に怒られると思った匠が、慌ててそう言う。
「うん」
そう言ってまた、ソファーに寝転がり本を読み始めた。
早く匠の相手を見て、自分の中のモヤモヤした気持ちを整理したいと思う涼が事を急がせた。
「今週の金曜日って、涼さん大丈夫ですか?」
翌日、匠が返事を寄越す。涼が仕事なのは分かっていた。
「ああ!彼女、連れてくる?」
弾ける笑顔で答えた涼に、激しく胸を痛めながら頷く匠。
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