結ばれない二人だから

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「え〜、お洒落なお店。匠さん、こんなに素敵なお店に来ているの?」 店に入るなり笑みを浮かべて控えめな声を出した女性は、清楚な装いがよく似合い、胸のあたりまで伸びたサラサラの髪が揺れた。 「以前に大学の先輩に誘われて来ただけです」 チラリと涼が匠に目を遣った。笑いもせずに真面目な顔で女性の隣に立っている。 「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」 涼がカウンターの席に手を翳した。 匠と結婚相手の彼女と二人でカウンター席に座る。涼の目の前。 涼と知り合いという事は伏せる様にと言われたので、知らない振りをする。 珍しく匠から誘いを受けて、こんなお洒落なお店に連れて来て貰いご機嫌の彼女の横で、全く気乗りしない顔の匠。 「ご注文は?」 「何でもいいですか?」 匠が横を向いて彼女に訊くと、はい、と柔かな笑顔を見せる。 「では、スプモーニを二つ、お願いします」 バーでカクテルを注文する匠は普段の匠とは全く違って見えて、彼女は目を丸くして見ていた。 涼がカクテルを作っている間、全く会話が無い。 え?と思って視線だけ二人に向けたが、いつもの事のような雰囲気に少し眉を顰めた。 「どうぞ」 涼がカクテルを目の前に置くと、先に「有難うございます」と答えたのは彼女。匠が何も話をしないのは、自分の前だからだろうかと涼は思ったが、彼女も普通に黙ってカクテルを飲んでいる。 (なんだ、この二人) あまりに不自然な二人の様子に、涼が堪りかねて声を掛けた。 「恋人同士、さんですか?」 チラッと匠が涼を見た。 「え?あ、はい… 結婚するんです、私達」 恥ずかしそうに彼女が答えて、匠は彼女とは反対の方を向き唇を噛んだ。 「え〜!そうなんですか!?おめでとうございます」 白々しく涼が言う。 それから彼女と涼が他愛のない話しを始めて、匠は会話に加わる事なく居心地の悪い思いで酒を飲んでいた。 「ね、匠さん」 急に話しを振られたが、聞いていなかったので分からない匠が、え?と彼女を見た。 「も〜、いつもこうなんですよ。私の事、好きなのか分からなくて」 涼に甘い声で文句を言った。 「好きですよ、結婚するんですから。恥ずかしいんですよ、きっと」 優しい笑顔を彼女に向けて言う涼を、今日ほど憎らしいと思った事がない匠。 「さぁ、今日はもう帰りましょう」 不愉快極まりない匠が、帰ろうと彼女に促すと 「え?まだ来て一時間も経ってないわよ、もう少し楽しみましょうよ」 彼女が匠の腕に絡まり、頭を肩に乗せた。その様子を見て、涼は氷を割るアイスピックに力が入る。 「もう一杯、頂きたいわ」 「何、作りますか?」 「お任せしていいですか?」 「かしこまりました」 「『ウェディング・ベル』ジンをベースにワインとチェリー・ブランデーにオレンジ・ジュース。お二人の門出をお祝いして」 鮮やかに真っ赤なカクテルが目の前に置かれ、喜ぶ彼女と、苦虫を噛み潰した様な顔の匠が対照的過ぎた。 ✴︎✴︎✴︎ 「どうしてあんな事を!?」 珍しく匠が涼に怒って詰め寄る。 いつもならとっくに寝ている筈の時間なのに、匠が起きて涼を待っていた。
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