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「可愛い彼女じゃん、流石いいトコのお嬢さん、って感じだな」
ジャケットを脱ぎ、笑いながら匠に言う。
「恋人同士としては不自然だったけど、二人並んだら目茶苦茶お似合いだぞ」
ははっと笑う涼に、堪らず抱き付く匠。
「どうして、どうして、そんな意地悪をするんですか?」
「意地悪?」
「僕の気持ちを知っているんでしょう?」
初めて自分の事を “自分” ではなく “僕” と言った匠にドキリとする。
「僕の気持ちを知っていて、あんな事をしたんでしょう?」
抱かれた事を言った。涼の肩に顔を埋めて、匠は強く抱き締めた。
「ああ、うーん、まぁ、そうねぇ」
のらりくらりと涼は答えて、匠の背中をポンポンと叩いた。
「ま、あんな可愛い綺麗な奥さんなら、匠も幸せに暮らしていけるだろ」
匠を自分から離すと、眉を上げて笑ってリビングを出て行こうとする涼の腕を掴む。
「もう一度… 」
「ん?」
「もう一度、抱いて」
涼の腕を掴んだ力が強くなる匠の顔が真剣で、その目にはじんわりと涙が滲んでいる。
「はっ!? 冗談だろ!」
掴まれた腕を思いっきり振り払い、匠に背を向けてリビングを出た時、目の前に小雪さん。
「うおぅ!びっくりしたぁ… 」
流石の涼も驚く。
涼を恨めし気に見る小雪さんで、
「やめてー、小雪さんがそういう顔するとリアルだからぁー」
と、横目で見ながら階段を登ると、涼のすぐ後ろにピッタリとくっ付いて離れない。
「小雪さんさぁ、匠の事気に入ってるの分かってるけどさ、アイツにとってこれが一番いいのは分かってるでしょ」
涼がそう言うと、一瞬で小雪さんはいなくなりビュッとリビングに入っていくのが分かった。
(え、ちょっと待って)
匠に何かすると思い、慌ててリビングに戻った涼。
ソファーで力無く座っている匠を見て、何事も無かったのが分かりホッとする。小雪さんが隅で嬉しそうに見ていた。やられた、と思って軽く舌打ちをした。
「あ、おやすみなさい… 」
ふらっと立ち上がり、今度は匠が部屋を出ようとする。
駄目だ、駄目だ、駄目だ、頭の中で涼は何度も連呼する。気持ちを整理する為に匠の婚約者に会ってみたんだろ、自分に言い聞かせる涼。
もう一度抱きたいのは涼も同じだった。
気が付いた時には、唇が重なっていた。
おぼつかない動きで舌を涼の口の中に挿れる匠。
「下手くそ」
涼がひとこと言って、涙ぐんでいる匠に優しくキスをした。
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