本性をさらけ出す

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本性をさらけ出す

匠と涼の事を快く思わない柚月だったが、幸せそうにしている二人を見て(なるようにしかならないか)と、ふっと溜め息をついた。 とは言え、柚月は基本24時間勤務で明けて帰り、翌々日にまた24時間勤務という勤務体制。柚月がいない時に匠と涼の情事が行われるのが、柚月にとっては不愉快だった。 「なんか俺が邪魔者みたいで、凄い不快なんだけど」 「えっ!? そんな事!ある訳ないじゃないですか!」 匠が真剣な顔で言う。 「お前がいる時にヤッてたら、気になるだろうが」 「別に好きにしろよ」 涼の言葉に、どうでもいい柚月が呆れた様に言い、二人のやり取りを顔を紅潮させて聞いている匠。 「匠、ヤってる時、声がデカいからなぁ」 「ちょっ!ちょっと何でそんな事言うの!?」 大汗を掻き、耳たぶも首までも真っ赤にして怒る匠に、ふっと、笑ってはみたものの、柚月はつかえる胸をそっと撫でた。 ✳︎✴︎✴︎ カランコロン。 涼が働くバーの扉が開き、目を遣ると息を呑む涼。 以前とは違う濃艶な雰囲気で、身体の線がはっきりと分かる服装に、真っ赤な口紅を付けて微笑む女性、匠の婚約者が現れた。 え?まさか、匠との事、バレた? 一瞬、固まる涼だったが即座に気を取り直し、笑顔になる。 「いらっしゃいませ」 「こちらにいいかしら?」 涼が立つ前のカウンター席の椅子を指す。 「どうぞ」 にっこりと笑って迎える涼が続ける。 「今日は、彼氏さんとは一緒じゃないんですね」 彼氏とは、匠の事。 「覚えていて下さっていたの?嬉しいわ。でもまぁ、あの人といたって、つまんないし」 そう言って意味あり気に微笑む婚約者に、眉を顰めた。 「以前とは雰囲気が違いますね」 「ええ、あの人と一緒の時は、清楚ないいトコのお嬢さんを演じてなくちゃいけないから」 ふふっと含み笑い。 顰めた涼の眉がピクリと動く。 「へぇ〜、どうしてですか?」 「彼ね、弓道の世界では有名な道場の跡取りなの。私の家も彼程ではないけど、小さな道場持っててね、彼と結婚すれば安泰なのよ」 「その為に、結婚?」 「そう、彼の容姿と技術と家柄が欲しいから。でも、あの人最近、さっぱり弓道しなくなったみたいで、彼のお父様はお冠なのよ」 テーブルに突いた左肘をそのままに、涼の作ったカクテルを持つと、持ち上げて意地悪な微笑みを見せると、一気に飲み干した。 そうなんですか、と悩み事を聞くように丁寧に耳を傾けて、この女の性根を探る為にアルコールが強めのカクテルを続けて差し出す。 「しかもEDだしっ!」 苦々しい顔で言った婚約者に、以前に来た時の清純そうな面影はまるで無かった。 「ED?」 「私がキスしても、胸を触らせても、全然ダメなのよ、考えられる!?」 胸、触ったのか、涼のこめかみにピキッと怒りマークが浮き出る。 でもEDじゃねぇーし、ちゃんとビンビンに勃ってるし、と思ってイラッとする。 「それは、男性として失礼ですね」 苛立つ声を抑えて涼が言った。 「でしょっ?まぁ、でもね、いいのよ。彼と結婚出来れば」 うふふっと笑ってカクテルを飲み干し、おかわりをねだる。
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