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「ルール、ね」
と言い、涼がお洒落なリビングダイニングに似つかわしくない、大きな模造紙を指差す。
一、恋人、友達、知り合いは連れてこない。
一、共同で使う場所は綺麗に使う、元の通りに片付ける。
一、入浴の順番は都度都度お互いで確認。
一、共同の場所の掃除は週で交代。
一、とにかく、お互い迷惑を掛けない様に最善の努力をする。
「とりあえず、これ守って」
トントントン、と人差し指でルールが書かれた模造紙を叩いた。誰が書いたものなのか、筆で書いたと思われる、手書き。
「二階のシャワールーム、使う?」
澄んだ瞳の綺麗な顔で訊かれて、
「… いえ、使いません」
と、ドキドキして小声で答えた。
「じゃ、二階のシャワールームは、俺専用って事で!」
ニコニコと、眉を上げて涼が言う。
「恋人や友達を連れて来ないって、では、ここには住人だけという事ですね」
模造紙を見ながら、匠が訊く。
「うん、どうしてもって時は相談して」
「誰に?」
「俺か、もう一人の住人、『柚月』に」
「柚月さん?」
「ああ、今日は勤務だから明日の朝帰ってくる」
分かりました、と笑顔で応えた。匠は特段、ここに連れて来ようと思う彼女も友人もいなかったから、何も不都合はない。
「嫌がるから、ここに不特定の人間が出入りするの」
「柚月さん、がですか?」
「いや、前からここにいる人」
「楠さんと柚月さんと自分以外に、どなたがいるんですか?」
自分を入れて住むのは三人と聞いていた匠は、不思議に思って訊ねる。
「そのうち分かるよ」
ふふっと笑った涼。
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