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「それで、いいんですか?」
形だけの結婚なんて、そんなつまんねぇ人生、嫌じゃないのかよ、そう思いながら訊く涼。
「いいのよ。彼、イイ男だし、一緒に並んで歩いて優越感に浸れるから。まぁシてくれるならそれに越した事ないけどね。それにアッチの方ならセフレいるから大丈夫」
酔いが回ってきた様な匠の婚約者が、ぺらぺらと話し出した。
「セフレ?」
「彼が出来ないんだから、仕方ないじゃない」
「それでは結婚しても、容姿端麗の彼氏さんの子どもは出来ないですね」
口元は微笑んでいるが、目は全く笑っていない涼。
何なら、悔しくて涙が滲んできた。
「大丈夫よ、体外受精するから」
にっこりと笑う顔に吐き気がした。
何杯目かになるだろうかのカクテルを差し出した時、匠の婚約者が涼の手を握った。
「ねぇ〜?バーテンダーさん、イイ男ね。いいわよ」
上目遣いで涼を見て、緩く口角を上げた。
ふざけんな、気持ち悪ぃな、そんな風に思いながらも握った手をそっと外して
「酔ってますね」
そう言いながら、軽蔑した目で涼は見たが酔っている婚約者には、それは分からない。
ブーブーと、スマホの着信音がすると、既に酔っている婚約者が「あら、セフレからだわ」と笑って電話に出る。
電話の内容を注意深く、ひとつひとつに耳を傾けて聞き入る涼。
「ごめんなさいね。で、何でしたっけ?」
大きく開いた胸元を、涼に見せつける様に前に屈んだ。
「いえ、お話しはもう、終わりましたよ」
後はマスターにお願いして、涼は匠の婚約者の前から離れた。腸が煮えくり返って、涙が流れた。
あんな女に匠は渡さない、そう思って強く拳を握り、切れる程に唇を噛んだ。
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