匠は渡さない

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真っ先にホテルかよ。 歩いている先にはラブホテル街。ホテルに入っていく姿も写真に撮れて、涼はふぅーっと小さく息を吐いた。 なんか俺、浮気調査とかしてる探偵みたいな気分になってきた、と涼が少し凹む。いやいや、匠の為だ!いや、俺の為でもあるけどな、と思って調査(?)を続けようと思うが、これから二時間近くは出てこないか、と思い顎に手を当てて考えた。 昼間のラブホテル街、人通りが少ない、たまに通る人が涼をまじまじと見ながら横を過ぎる。こんな格好でじっと立っているのは精神的に辛い涼。 周りを見回すと、丁度良い所に喫茶店があった。そこに行こうと思ったがいつ出てくるか分からない。出てきたのが分かってから店を出たら遅い、やっぱここに居るしかないか、と覚悟を決めた涼の前に突然現れた。 小雪さん。 へっ!?小雪さん、外にも出るの!? 声に出さずに胸の内で問うと、こくん、と小雪さんが頷いた。 〈ここは任せて、涼は喫茶店に〉 と、何故だか小雪さんが手話を始めた。 何で手話? てか俺、手話分かんねーし、いいよしなくて、言いたい事分かるから、てか、“涼” って呼び捨て? ツッコミどころが満載で思い切り眉を顰める涼に微笑む小雪さん。 小雪さんの微笑み怖ぇ。 密かに思ったが、小雪さんに睨まれてスンとする涼。 ここは小雪さんにお願いして、喫茶店に行く事にした涼が頭を下げる。〈いいのよ〉と小雪さんが手を翳し、任せて、とばかりに頷いた。 喫茶店の窓側を見ると、丁度ホテルの出入り口も見える場所の席が空いていて、そこに座る。 「いらっしゃいませ〜」と水と紙おしぼりをテーブルに置き、注文を訊くために紙とペンを持って待っている女性店員に外を見たまま「コーヒー」とひと言。こんな事は日常茶飯事の様な店員が怪訝に思う事もなく「お待ちくださ〜い」と機械的な声出して傍を離れた。 季節はもう冬になり、厚手のジャンパーを着たままの涼だったが、そんな事も珍しくない店員がコーヒーを置いた。 「ありがとう。あ、ここにお金を置いておくから、急に店を飛び出したらごめんね」 涼がサングラスとマスクを取って店員に言うと、涼のイケメンっぷりにポッと顔が赤くなり 「かしこまりました!」 先程とは雲泥の差の応対。 コーヒーをゆっくりと口にしながらも、目線はホテルの出入り口から離さない。 小雪さんがホテルの前にバッと現れ、涼の方を見て手を上げた。 よしっ!涼が急いで喫茶店を出て物陰に隠れる。 二人が出てくる所の写真も撮れて、安心する涼と小雪さん。 「ありがとう、小雪さん」 涼がお礼を言うと、大きく頷き〈後は頼みましたよ〉と残して、小雪さんが消えた。 知ってたんだな、小雪さんは… そう思って、涼はもう一度頭を下げた。
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