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掴んだ尻尾と柚月の恋
「何、お前その格好」
サングラスにマスク、キャプ帽姿の涼を見て柚月が驚く。
「ん、ちょっとな… 」
そう言いながらサングラスやマスクを外して時計を見て、匠がまだ帰って来ない事を確認する涼。
「柚月、ちょっといいか」
✴︎✴︎
「誰?これ」
今日撮った写真を柚月に見せて、匠の婚約者とそのセフレだと説明する。
「はっ!?」
喫驚仰天の柚月の顔は般若の様になっている。
「どういう事だよ」
事情を知らない柚月に涼が説明をした。
匠に婚約者を店に連れて来させた事、その後婚約者が一人で涼の店に来て、匠との結婚の真相を話した事、自分にはセフレがいると話した事などを簡単に話す。
そして今日二人が会う約束をしていたので、証拠を撮って来たとスマホの写真をテーブルに置き、柚月を見る。
「で?どうすんの?匠に言うの?」
柚月が涼の顔を覗き込んだ。
「ん… いくら好きでもないヤツとの結婚とはいえ、やっぱ傷つくかなと思って… 」
匠に知らせるのは躊躇した。
「そうだな… 」
柚月も顔を曇らせた。
「あ、そうそう、小雪さんが助っ人で来てくれた」
「小雪さん?助っ人?」
柚月は眉間に皺を寄せて怪訝な顔をした。
あーでこーで、とちょっと笑いながら説明すると、柚月の後ろに小雪さんが怖い顔で現れたので、途端に涼は真面目な顔で話し出す。
少し斜め後ろを振り返りながら、
「小雪さん、ありがとう」
と柚月が言うと、小雪さんはにっこりと笑った。
何だよ、俺が一番気に入られてないみたいじゃん、と不貞腐れた様になるとまた、
〈そんな事ない〉
とまた手話を始めたので、思い切り吹き出した。
「何だよ、汚ねーな」
眉を顰める柚月。
「まぁ、どうするか、ちょっと考えようと思う」
匠の婚約者の不貞の証拠をどうするかの事を言うと「うん、俺も考えてみるわ」と言って席を立った柚月の様子が変な事に気付く涼。
「柚月、なんかあった?」
「え?別に何も」
そう言って笑って見せたが、その笑顔は引き攣っている。
「何?話せよ」
そう言って涼も立ち上がった時、
「ただいま帰りました!」
と元気な匠の声が聞こえて、涼の顔が綻ぶ。
「お帰り、お帰り」
ニコニコと玄関に迎えに出る涼。今日、証拠を掴んだ婚約者の事をどうしようか決めていないが、これで自分達の未来が少し明るいものになった気がした涼がご機嫌になっている。
「どうしたの?嬉しそうだね、涼さん」
まぁな、と満面の笑みの後ろから
「匠、お帰り」
柚月が声を掛けて二階へ上がろうとした。
「ただいま帰りました、柚月さん?元気ないですね」
「あ?だろ?匠もそう思うよな?」
そうそう、様子が変だった柚月を思い出し涼が言った。
「何でもないよ」
「そういう顔じゃねーな」
「そうですよ、何だか柚月さんらしくないです」
二階へ上がりかけた柚月の腕を掴んだ涼。
「言えよ」
柚月は「うーん」と言いながら、三人してダイニングテーブルに着いた。
「花屋の子?」
涼が柚月の顔を凝視して訊く。
「食事に誘われた」
「やったじゃん!」「良かったですね!」
涼と匠が嬉しそうな顔をして声を上げたが、柚月の顔は曇っている。
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