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「俺が本当は女だって知らない」
ああ… と、俯き加減になる匠と涼。
今までもずっとそれで、柚月の恋が結局成就しないのを涼は知っていた。
「見てるだけで、話せるだけで良かったんだ、俺」
涼は頭を掻き、匠は真剣な表情で話しを聞いている。
「もう、あの花屋には行けないな」
鼻をくしゃっとして、涙を浮かべる柚月が切ない匠。
「どうせ行けなくなるなら、本当の事を話したらどうですか?」
遠慮がちに匠が言った。
涼と柚月が匠を見る。
女である事を内緒にして、最初のうちはデートをしていた今までの柚月の恋。様子がおかしいと思われ、そこでカミングアウトをするが、全てその場でフラれて終わっていた。
「あんな思いをするなら、このまま会わないで終わった方がいい」
恋に消極的になってしまった柚月。
「本当の事を言わなくても、もうお花屋さんには行かないのなら、いいじゃないですか本当の事を言ったって」
人知れず泣いてきた柚月を知っている涼は、匠の言葉に「そうだ」と賛成する事が出来ない。
「辛い思いを沢山してきたかも知れないですけど、それは全部柚月さんの優しさと人を思いやる心になっています。どんな結果になっても、絶対に無駄じゃありません。もし恋が破れてしまったら、柚月さんと涼さんと、自分の三人で盛大に残念会を開きましょう!」
暫く考え込んだ様な柚月が、ふっと笑い、匠に勇気を貰った。
「うん、そうだな。ありがとう、匠!」
その気になった柚月を見て、何年も傍にいながら匠の様に出来なかった自分が少し悔しい涼だったが、だからこそコイツがこんなにも愛おしいんだな、俺、と思ってふっと笑う。
すげーな、匠。
ただただ感心して、涼は目を細めた。
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