新たな一歩

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『話がある』と先に連絡入れようか、それとも直接顔を見ていきなり話した方がいいか、悩みながらも笑みが止まらない。 涼は今夜は仕事だ、店に向かって走る匠。 結婚が無くなった、道場を継がないと父親に告げた、自分はもう自由だと思い、走る足は弾んでいる。 ずっと涼の傍に居れる、そう考えただけで匠は涙が滲んできた。 カランコロン、カランコロン! 扉を開けたあまりの勢いに、ドアベルが激しく鳴る。 はぁはぁと、走ってきた匠が息を切らして店の入り口に立つと、涼が驚いて振り向いた。 「匠っ!?」 「涼さんっ!」 人目も憚らず、カウンターの中に入って涼に抱き付いた。 店には数人、数組の客がいたが、皆びっくりして目を見張り、涼に抱き付く匠を見る。 実家に行くと連絡を貰っていた涼は、少なからず見当は付いていた。 涼目当ての三人組の女性客が立ち上がると眉を顰め、口元に手を当て、抱き合う二人を見つめている。 涼が言葉にせずに、人差し指で匠と自分を指し、 〈これ、俺の… 〉 次は最初小指を出し、〈彼女〉としたが首を傾げ違うか、と思い続いて親指を出し、それも違うか?と一人で何度も首を傾げて、最終的に抱き寄せて頬を匠の頭に擦り寄せた。 三人組の女性は、「え〜っ」と意気消沈して座り込むと、抱き合う匠と涼を羨まし気に見て、互いに顔を見合わせて肩をすくめて微笑んだ。
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