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涼の憂慮
「機嫌、悪すぎだろう」
リビングのソファーに寝そべり、何度も起き上がってはスマホを見て、チッと舌打ちをする涼に呆れたように柚月が言い捨てる。
「何で返事、寄越さねーんだよっ!」
機嫌悪いだけでは飽き足らず、文句を口に出し始めた。
「初めて参加するって言ってたろ、楽しんでんじゃないの?」
火に油を注ぐ柚月。
中高時代の弓道部の同窓会に、初めて参加する匠からのメールの返事を待つ涼。
眉間の皺が深く、ソファーに座り直すと足でパタパタと小刻みに床を打つ。
「涼、煩いよ、落ち着け」
「だって、簡単な返事くらいしたっていいだろう!? こんなにメール送ってんだぜ、俺」
と柚月に見せたメールの画面は、ザッと十件以上は送られた後。
『今、何してんの?』
『誰と話してんの?』
『何、飲んでんの?』
『帰る時、連絡しろよ』
『まだ帰んねーの?』
『いつ帰る?』
『何時に帰る?』
こんな風なのが延々に続いている。
「こっわ!」
柚月がドン引きした。
「匠ー、匠ー!」
居ても立っても居られない涼。
「お前だって勝手に遊び歩いてんじゃん」
呆れ果てている柚月の言葉に即座に返す。
「今は遊び歩いてないっ!匠がいる日はちゃんと匠の傍にいるから!俺!」
確かにそうだった。
匠と恋愛関係になる前は、沢山の誘いを受けて遊び歩き、休みの日に家に居るのは珍しかった涼がこんなにも変わるとは、柚月はびっくりしている。
恋愛に関しては淡白だとばかり思っていた涼が、こんなにも独占欲や嫉妬心が強かったのかと初めて知り、涼の匠に対する強い胸の内を思うと、少し可愛く思えて笑う柚月。
✴︎✴︎✴︎
「え?同窓会?」
「うん、今まで行った事ないんだ。興味がなくて」
「何で?今は興味があるのかよ」
「何となく、視野を広げてみようかと思って」
中高と所属していた弓道部の同窓会の通知を手に持ち、涼に話す匠。
ずっと親の言う事を聞いて生活をしてきて、特に何の興味も持たず、楽しそうな事にも足を踏み入れないできた匠が、行ってみようかと思って言った。
「いつ?」
「再来週の土曜日」
俺、休みじゃん。俺、一人で家に居るの?
涼が胸の中で駄々をこねた。
「いいんじゃない?」
本当は嫌だった。匠が自分の知らない人間と愉しげに過ごすなんて耐えられない涼。それでも、寛容な所を見せようかと思ってそう言った。
「うん!行ってくる!」
嬉しそうに笑った匠が恨めしくて、部屋の隅で泣いた涼。
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