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初めてじゃ、ない。
久しぶりではあるけれど、想像できないほど未知じゃない。
「あいつ」以外の人間が初めてだってだけで。
「瞬」
伸幸が腕を伸ばしていた。瞬はその手を取りふとんに膝をついた。
ふふっと笑って伸幸は手を引いた。瞬の身体はこてんと伸幸の胸に転がりこんだ。
伸幸は瞬の身体に腕を回し、凹凸を楽しむように背骨のラインを指でたどった。
「ん……っ」
瞬はその感触に軽くけいれんして身をそらした。
伸幸の目の前で誘惑するようにふるえる、瞬の突起。
「ホント、かわいいな。感動する」
「う……んっ」
伸幸は瞬の誘惑に乗ったように、目の前でふるえる突起にしゃぶりつき、瞬ののどから感きわまった声を出させた。
同時に、背を下っていった伸幸の指は。
「あっ」
瞬の秘密の部分にたどりついた。
伸幸の指は、意外なほど繊細に動いた。
丁寧に、慎重に、優しく、秘密の部分に入りこみ、粘膜の感触をさぐりながら分け入って。
「う……」
その感覚に瞬はおもわずうめき声を漏らしてしまった。
「痛い?」
伸幸は指を止めた。
瞬は必死に首を振った。
「じゃあ、動かすよ」
伸幸は再開した。
ぬるぬるとさぐられるのが気持ちよくて、おかしくなりそうだ。
しばらく誰にも許していなかったそこは、覚悟したほどの痛みもなく瞬は驚いた。
苦痛なく快楽にたどりつけた経験は、行為が日常的だった頃もあまりなかったからだ。
意識が飛ぶ前に瞬は言った。
「あんた、早くないか」
「なにが」
「……見つけるのがだよ」
「ああ」
伸幸はのどの奥で軽く笑った。
「……ここ?」
「あ」
伸幸は情熱的にその指を動かした。
「こうされると、気持ちイイ?」
瞬は返事をする余裕もない。うなずく代わりに身をよじった。
「瞬……」
「……なに……」
伸幸はいっときも指を止めることなく、優しく瞬をうながした。
「声……出して……ガマンしないで」
「伸幸……さん……」
伸幸は少しずつ瞬を押しひらき、ゆるめていった。
こらえきれなくなった瞬がそれをせがんでしまう寸前に、伸幸はさぐっていた指を引き抜いた。
「痛かったら言って」
「言ったらやめるのかよ」
「……うーん」
伸幸は腰を少し止めた。
「ムリかな」
「じゃ、聞いてんじゃねえよ」
「ふふ……」
瞬がいちいち毒づくのは、恥ずかしさを隠すためだ。
男の自分が、伸幸にあれこれされて、あんあん泣き叫んでしまうなんて、恥ずかしくて耐えられない。
伸幸は瞬の秘密の部分に押し当てて、ゆるめたそこの入り口を確かめた。
「入れるよ」
瞬は受諾のしるしに小さくうなずいた。
瞬の許しを待って、伸幸は身体を深く進めた。
瞬は小さな声で「エアコンつけて」と伸幸に頼んだ。
伸幸は長い腕を伸ばして、部屋の端へ寄せたテーブルの上からリモコンを取った。
スイッチを押したあと、伸幸は傍らに寝そべる瞬の髪を撫でた。
「伸幸さんさあ……」
けだるい午後の陽射しが、カーテンの向こうにゆれている。
「ん?」
伸幸は瞬の髪を撫でる手を止めない。
瞬は唇をとがらせた。
「どんだけ経験あるのって感じ」
「ええ?」
伸幸の声は笑いを含んで甘い。
「だってさぁ……」
瞬は恥ずかしくてかけぶとんを頭までかぶり、伸幸の膝に頬をよせた。
「ムチャムチャ手際よかったじゃんか。俺の身体は初めてのくせに、あんなに」
瞬はそこで言葉を切った。
伸幸は瞬のかぶったふとんをめくり、照れて赤くなった瞬をあらわにした。
「『あんなに』……何?」
伸幸はからかうようにまた問うた。
「気持ちよかった?」
瞬はふとんごと伸幸を押しのけた。
「……そうだよ」
瞬はその勢いで起きあがり、ふとんの上で膝を抱えた。
何ヶ月抱かれつづけても、痛いばかりでなかなか快楽へ導いてもらえなかった、瞬の数少ない男性経験と比べると。
手際がよすぎる。
伸幸は、もしかして、ものすごい遊び人なのかもしれない。
前の住人である「誠さん」とだって、連絡を取らないうちに音信不通になってるし。そのあとに同じ部屋に住んだ瞬と、こういうことになっている。
相手の性別にもとくにこだわりはないというし。
手慣れた遊び人。
瞬にこんなに優しいのも、コミュ強だってだけかもしれない。
快楽の余韻に、マーブル模様のように不安が混じる。
そんな瞬の頬を、伸幸は指の背でそっと撫でた。猫をあやすように静かに。
「瞬こそ」
「何だよ」
「『初めて』みたいだった」
伸幸は瞬をぎゅっと抱きしめた。
「かわいかったよ」
(く、悔しーーー!)
「しかたねえだろ」
「ん?」
「初めてだったんだから、あんなに……」
瞬は悔しさに抱えた膝の先をかんだ。伸幸が瞬の言葉の続きを待っている。
「あんなに気持ちよかったセックスは」
悔しさと照れで、吐きすてるように瞬は言った。
「それはさあ……こんな言い方していいか分からないけど……」
伸幸は気づかわしげに呟いた。
「よっぽど男運悪かったんじゃないの」
もう、笑うしかない。
「ははっ。それな。そりゃ確かにそのとおりだ。あはは」
瞬は力なく笑ってしまった。
伸幸は少し悲しい顔をした。まるで痛ましいものを見るように。
そして、もう一度、瞬の身体をぎゅっと抱いた。
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