5、セカンド・バージン

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 初めてじゃ、ない。  久しぶりではあるけれど、想像できないほど未知じゃない。 「あいつ」以外の人間が初めてだってだけで。 「瞬」  伸幸が腕を伸ばしていた。瞬はその手を取りふとんに膝をついた。  ふふっと笑って伸幸は手を引いた。瞬の身体はこてんと伸幸の胸に転がりこんだ。  伸幸は瞬の身体に腕を回し、凹凸を楽しむように背骨のラインを指でたどった。 「ん……っ」  瞬はその感触に軽くけいれんして身をそらした。  伸幸の目の前で誘惑するようにふるえる、瞬の突起。 「ホント、かわいいな。感動する」 「う……んっ」  伸幸は瞬の誘惑に乗ったように、目の前でふるえる突起にしゃぶりつき、瞬ののどから感きわまった声を出させた。  同時に、背を下っていった伸幸の指は。 「あっ」  瞬の秘密の部分にたどりついた。  伸幸の指は、意外なほど繊細に動いた。  丁寧に、慎重に、優しく、秘密の部分に入りこみ、粘膜の感触をさぐりながら分け入って。 「う……」  その感覚に瞬はおもわずうめき声を漏らしてしまった。 「痛い?」  伸幸は指を止めた。  瞬は必死に首を振った。 「じゃあ、動かすよ」  伸幸は再開した。  ぬるぬるとさぐられるのが気持ちよくて、おかしくなりそうだ。  しばらく誰にも許していなかったそこは、覚悟したほどの痛みもなく瞬は驚いた。  苦痛なく快楽にたどりつけた経験は、行為が日常的だった頃もあまりなかったからだ。  意識が飛ぶ前に瞬は言った。  「あんた、早くないか」 「なにが」 「……見つけるのがだよ」 「ああ」  伸幸はのどの奥で軽く笑った。 「……ここ?」 「あ」  伸幸は情熱的にその指を動かした。 「こうされると、気持ちイイ?」  瞬は返事をする余裕もない。うなずく代わりに身をよじった。 「瞬……」 「……なに……」  伸幸はいっときも指を止めることなく、優しく瞬をうながした。 「声……出して……ガマンしないで」 「伸幸……さん……」  伸幸は少しずつ瞬を押しひらき、ゆるめていった。  こらえきれなくなった瞬がそれをせがんでしまう寸前に、伸幸はさぐっていた指を引き抜いた。 「痛かったら言って」 「言ったらやめるのかよ」 「……うーん」  伸幸は腰を少し止めた。 「ムリかな」 「じゃ、聞いてんじゃねえよ」 「ふふ……」  瞬がいちいち毒づくのは、恥ずかしさを隠すためだ。  男の自分が、伸幸にあれこれされて、あんあん泣き叫んでしまうなんて、恥ずかしくて耐えられない。  伸幸は瞬の秘密の部分に押し当てて、ゆるめたそこの入り口を確かめた。 「入れるよ」  瞬は受諾のしるしに小さくうなずいた。  瞬の許しを待って、伸幸は身体を深く進めた。  瞬は小さな声で「エアコンつけて」と伸幸に頼んだ。  伸幸は長い腕を伸ばして、部屋の端へ寄せたテーブルの上からリモコンを取った。  スイッチを押したあと、伸幸は傍らに寝そべる瞬の髪を撫でた。 「伸幸さんさあ……」  けだるい午後の陽射しが、カーテンの向こうにゆれている。 「ん?」  伸幸は瞬の髪を撫でる手を止めない。  瞬は唇をとがらせた。 「どんだけ経験あるのって感じ」 「ええ?」  伸幸の声は笑いを含んで甘い。 「だってさぁ……」  瞬は恥ずかしくてかけぶとんを頭までかぶり、伸幸の膝に頬をよせた。 「ムチャムチャ手際よかったじゃんか。俺の身体は初めてのくせに、あんなに」  瞬はそこで言葉を切った。  伸幸は瞬のかぶったふとんをめくり、照れて赤くなった瞬をあらわにした。 「『あんなに』……何?」  伸幸はからかうようにまた問うた。 「気持ちよかった?」  瞬はふとんごと伸幸を押しのけた。 「……そうだよ」  瞬はその勢いで起きあがり、ふとんの上で膝を抱えた。  何ヶ月抱かれつづけても、痛いばかりでなかなか快楽へ導いてもらえなかった、瞬の数少ない男性経験と比べると。  手際がよすぎる。  伸幸は、もしかして、ものすごい遊び人なのかもしれない。  前の住人である「誠さん」とだって、連絡を取らないうちに音信不通になってるし。そのあとに同じ部屋に住んだ瞬と、こういうことになっている。  相手の性別にもとくにこだわりはないというし。  手慣れた遊び人。  瞬にこんなに優しいのも、コミュ強だってだけかもしれない。  快楽の余韻に、マーブル模様のように不安が混じる。  そんな瞬の頬を、伸幸は指の背でそっと撫でた。猫をあやすように静かに。 「瞬こそ」 「何だよ」 「『初めて』みたいだった」  伸幸は瞬をぎゅっと抱きしめた。 「かわいかったよ」 (く、悔しーーー!) 「しかたねえだろ」 「ん?」 「初めてだったんだから、あんなに……」  瞬は悔しさに抱えた膝の先をかんだ。伸幸が瞬の言葉の続きを待っている。 「あんなに気持ちよかったセックスは」  悔しさと照れで、吐きすてるように瞬は言った。 「それはさあ……こんな言い方していいか分からないけど……」  伸幸は気づかわしげに呟いた。 「よっぽど男運悪かったんじゃないの」  もう、笑うしかない。 「ははっ。それな。そりゃ確かにそのとおりだ。あはは」  瞬は力なく笑ってしまった。  伸幸は少し悲しい顔をした。まるで痛ましいものを見るように。  そして、もう一度、瞬の身体をぎゅっと抱いた。
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