退屈な一日

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   三  図書館の静かな空間は、集中するにはもってこいだ。いつの間にかのめり込み、無心で読んでいるうちに、大きな窓の外は、まだ明るいにしろ日は段々と傾き始めているようだった。  図書館に着いてから四時間ばかり経っている。こんなに長い時間を図書館で過ごしたのは、大学生以来じゃないか? などと考えながら一息ついた。  空腹も感じたので、読み終えた本を棚に戻し、出ることにする。夕食にはまだ早いが、何だかんだで昼食もとっていなかったので、どこかで食べてから帰ることにした。  再び電車に乗り、自宅の最寄り駅へ戻る。そして、歩き慣れた駅の近くの定食屋に入ると、とんかつ定食と生ビールを注文した。ここは、この近辺に引越してきてから何度か来ている店だ。値段も味も至って普通の、よくある定食屋である。  客はまだ少なく、他には親子連れが一組あるだけだ。その親子の賑わいを聞くともなしに聞きながら、ふと子供のころの事などを思い出し、そういえばもう何年実家に帰っていないだろう、などと思いながら食事を終えた。  店を出ると、日はすっかり暮れていた。少しずつ、日没が早くなっている。  帰ったら、何をしよう。明日は、どうしよう。そんなことをぼんやりと考えながら、夜道を歩く。何をするにしても、あとは寝るまでのんびりと過ごすだけだ。  まだ観ていない映画を漁るのもいい。ああ、だいぶ前に何かの記念で貰ったワインを引っ張り出してもいいな──。  こうして一人の男の、ある種退屈な一日は終わったのだった。    了
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