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つい、親しい友人にする態度で手に持っていたサンドイッチを新しいものに持ち替え、モモちゃんの方へと向けた。所謂「アーン」ってやつ。本当に他意はなかった。ただ、お腹を満たして欲しかった。それのに、モモちゃんってば狡い。なに、なぁに、その顔。
「っ、……バ…カ、アンタ、なにやってんだ」
「ぇ、あ、う、ううぅ、あ、あの、」
「待って。マジで、ちょっと待って。ストップ。今のなし」
手のひらで視界を遮られても、指の隙間から見える色は消えない。
モモちゃん、撮影ではどんなに際どい触れ方でも絡み方でも涼しい顔をしていたのに。それどころか例の私がやらかした日なんてガッツリ胸が当たっても無感動で普通にディスってきたぐらいなのに。
なんで、どうして。そんな、耳まで真っ赤にして照れちゃうの。
「…………ほんと、勘弁して」
へにゃりと力なく折れた指先が、そのままサンドイッチを浚っていく。一瞬触れ合った熱から伝染して私の体温も1℃上がった気がした。
(ううぅ、こっちだって勘弁してだよ~!)
付き合いたての中学生かってぐらいにお互いモジモジして、目も合わせられず、小さな咀嚼音だけをせっせと作り出す。い、居たたまれない。こういう時ってどうすれば良いんだっけ。
手を繋いだわけでも、キスしたわけでも、ましてやセックスしたわけでもないのにこのむず痒さと気まずさなに~!自分が乙女になったみたいでヤだ。ヤだあ!私は、もっと、こう!アレじゃん!爛れた感じのアレじゃん?!だってアラサーだよ?!酸いも甘いも全部それなりに経験してきたのに、それなのに、今さら、
「…………あ」
「っ、え!な、なに?」
「爪」
今度こそ息の根が止まった。
そう、もう、呼吸どころか心臓が止まった。モモちゃんの細くて長い指が、カフェオレマグを包むようにして持っていた私の手に触れ、そのまま彼の目の前まで連れて行かれる。
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