5人が本棚に入れています
本棚に追加
頭を過るのは、王子様がお姫さまの手の甲に口付けをするシーン。
「うっ、ううぅ、ふぐぅ」
「なに珍妙な声で鳴いてんですか」
「なななな、なっ、ないて、ない!」
「……爪、今朝までは凶器かってぐらい尖ってて、花やら蝶やらついたゴッテゴテのやつでしたよね。お気に入りって言ってたのに」
にぎにぎ、さわさわ、爪を好き勝手弄って、最後に縁をなぞる。
「もしかして、俺の、……為?」
――負けた。負けました。完敗です。白旗ぶん回しちゃう。
一回り近く歳の離れた高校生の男の子の一挙一動に振り回されて、まんまとドツボにハマって。初恋みたいに照れちゃって。うん、降参。
だぁって、モモちゃんカッコいいのにかわいいんだもん。こんなの勝てるわけないよ。言葉だけ聞いてたら今流行りの俺様?って感じにとれちゃうかもしれないけど。違うよ。整った眉毛を下げちゃってさ。きゅっと唇を引き結んで。まだ、耳がほんのりと赤いの。
ダメだなあ。感化される。こっちも素直になるしかないじゃん。
「っ、ぅあ゙あああ!そうですモモちゃ……百瀬くんの為ですぅ!今日という日に向けてコソコソうきうきルンルンで仕込んでましたああああ!気持ち悪くってごめんねえ?!」
「そ、なん……ですね。別に気持ち悪くはないですけど」
「えっ!マジで?!」
「はい。それに、この色」
「色?」
「俺、好きです」
そう言ってゆっくりと爪の表面を撫でるその手つきが優しい。なんの変哲もないシンプルなフレンチネイル。カラーはモモちゃんを意識してピンクベージュのグラデーションをベースに、先端には私っぽいゴールドのラメを選んだ。つまり、完全に自己満足。
最初のコメントを投稿しよう!