ペットショップで

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ペットショップで

「ねぇねぇ、お母さん。いいでしょ?鳥なら飼っても大丈夫なんだよね。」  ペットショップの一角で子供の声がする。  騒いでいるのは、小林健斗。11歳だ。  母の小夜子はずっと生き物を買うことに反対していた。飼っても結局面倒を見るのは自分だからだ。屋台の金魚も、亀も。  ペット不可のマンションなので犬や猫は飼えないが、小鳥の類は届け出れば飼える。という細則を健斗の姉の小百合が見つけてしまったのだ。  健斗が欲しがっているのは色鮮やかなカナリア。  もう11歳だし、小鳥の世話位はできるのではないか?  生き物の大切さを教える良い機会なのではないか?と思い、ペットショップに来たのだった。  実は小鳥を飼うのは、犬や猫よりずっとデリケートで難しいのだが、誰もそれには気付かなかった。  場所も取らないし、気楽に飼えると高をくくり、カナリアと、飼育できるセットが一式着いた鳥かごやエサなどをまとめて購入した。  家に帰るとすぐに鳥かごの下の部分に新聞紙を敷き、水と餌を入れ、カナリアを移動させた。 「いい?健斗。鳥かごの下に敷いた新聞紙は毎日替えてあげる事。鳥だってあなたと同じでトイレをするのよ。フンが汚いとか言わずに毎日きちんと替えるのよ。」 「それからご飯と水も毎朝きちんと取り換えてから学校に行くのよ。」 「自分で飼うって言ったんだから、お母さんは面倒見ないからね。約束だからね」  多少無駄だとは思いながらも小夜子は健斗に言い聞かせた。 「うん。わかった。」  もちろん、飼い始めの頃は健斗もきちんと世話をしていた。  ただ、慣れてくると寝坊をした日などは世話をせずに家を出てしまう日が増えてきた。ただ、大抵の日はきちんと新聞紙も変え、水も変え、エサの様子も確認しているようだったので、小夜子も健斗に世話を任せていた。  そんなある日。みんなが朝起きてくると・・・  カナリアはかごの下に落ちて固く冷たくなっていた。  健斗は慌ててカナリアを抱き上げたが、もう、生き返るような状態ではなかった。 「なんで?水換えてたし、餌は入っていたから大丈夫なはずだよ。」  健斗は泣きながら言ったが、もうカナリアは帰ってこない。  せっかく約束を守っていたのに、小さな命は消えてしまった。  健斗も、小夜子も、小百合も。家の者は誰も知らなかった。  鳥は餌の中の部分だけを食べるので、その殻が上にたまっていくのだ。一見餌が入っているように見えてしまうのだが中身のない殻だけがエサ入れに残ることになる。  毎日、エサの上の部分を吹いて中身がない殻を飛ばして確認しないと、いつの間にか全部からになっている。  そう。餌が入っていると思っていたこの家の人たちは、毎日面倒を見ているつもりだったのに、カナリアを飢え死にさせてしまったのだ。  生き物を飼うことはそう簡単ではない。今回のエサもその一つだ。    今回、安易に考えてカナリアを飼ってしまった小夜子は、自分もまだまだ勉強が足りないと反省した。  ただ、健斗はさぼった日もあったが、大抵は頑張ってお世話をしていた。エサの事は知識不足でカナリアには可哀そうなことをしてしまったが、小さな命を失ったことで、大切な大きな何かを受け止めてくれたらいいな。と思った。  小さな箱にティッシュをたくさん入れてフカフカになったベッドに入ったカナリアに手を合わせた。  
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