君と交わしたあの日の約束

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「それじゃあ、約束ね!」  その言葉を聞くと同時に、少女はベットの上で目覚めた。鈴村優(すずむらゆう)。それが彼女の名前だ。時々、名前のせいで時々男と間違えられるが、長い艶やかな黒髪を持つ、優しいお洒落な女の子だ。優の名前をつけた母親は「名前に支配されず、ただ優しさだけを持ち、あとは自分のなりたい姿になってほしい」との願いを込めてこの名前をつけた。好きな色や季節が出来た時、自分の夢を持った時、彼女がどんな人間になる事を望もうとも、母は名前が優の人生の足枷になることだけはどうしても避けたかった。歩みたい人生が決まった時に、名前で道を諦めることだけはしてほしくなかった。  そんな母の名前は、鈴村墨零(すずむらすみれ)。名付けた墨零の母は漢字を決める前に亡くなってしまったため、書道家である父が、娘も書道家になる事を期待してこの墨という字を用いた。名前にふさわしい人間にならなければいけないと感じた墨零は現在、書道の先生をしている。漢字の形が好き。という理由で用いられた零の字も、数字の話になるたびに「ゼロ好きなの?」と言われ、墨零は気づいたら「好きな数字はゼロです」と自分から言うようになっていた。墨零の人生は名前に支配されてばかりだった。だからこそ愛する娘には、支配されにくい優という名前をつけたのだった。  
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